原題は「DEMOLITION破壊」。興味を引くようなタイトルにするにはかなり苦労するだろう。それにしても長い邦題だ。車のサンバイザーを比喩に使った妻の気持ちということがのちに分かる。
銀行員のデイヴィス・ミッチェル(ジェイク・ギレンホール)は、朝5時半に起きて妻ジュリア(ヘザー・リンド)の運転でマンハッタンに向かっていた。車中の会話は「冷蔵庫に水漏れがあるわ」という妻の言葉に「俺が直すのか」とにべもない反応のデイヴィス。子供がいない結婚生活の風化が感じられる場面。
交通事故は予告もなく訪れ一瞬にして一人の人間の息を止める。救急治療室のベッドにはジュリアはいない。フロアーに血に染まった衣服が落ちているのがジュリアが存在した証明のようだ。
ところがデイヴィスには、涙も悲しみも感じられない。人気のない病院の自販機のチョコレートが引っかかって出てこない。夜勤の男に出してくれと頼むが、業者が管理しているからできないという。日本では考えられない対応だ。しかし、映画のストーリー上これがないと後が続かない。
葬儀の朝、泣く練習をしたが涙の一滴も出ない。葬儀の後のおもてなしの場でも戸惑いを感じながら、「チャンピオン社御中 聖アンドレ病院の自販機について。25セント玉を5っ入れB2を押したがピーナツのM&Mが出てこなかった。空腹だったので頭にきた。妻が死んだ10分後だったし、それは貴社のせいではない。交通事故だし僕は無傷、ただ状況を正確に伝えたいだけだ。ことの発端から……起床は5時半……」と始まり自分の職業や通勤電車内のこと、書類カバンは好きじゃないとかを長ったらしく書いていく。大体こういうときに苦情の手紙を書くのか。精神に若干の異常を表しているのだろう。
ジュリアの父フィル・イーストマン(クリス・クーパー)は、「心の修理は車の修理と同じだ。点検するそして組み立て直す」という。思い出したように冷蔵庫の水漏れ点検でバラバラにしたのをきっかけに、自宅のパソコン、事務所のパソコン、2000ドルもするカプチーノ機がバラバラにされる。残念ながら組み立てができない。
こんな状況に並行して語られるのは、チャンピオン社の苦情処理係のカレン・モレノ(ナオミ・ワッツ)からの1本の電話だった。カレンは生意気な息子クリス(ジュダ・ルイス)に手を焼くが、デイヴィスとは仲良くやっていて、家の破壊を手伝ったりする。白を基調とした高級感はあるが冷たい感じの家を惜しげもなく壊していく。カレンとの関係は、恋なのか単なる友情なのかそこのところは判然としない。
いずれにしてもこの母と子との巡り合いは組み立て過程に役立った。しかも、日差しのキツイ日、サンバイザーを下ろすとメモが張り付けてあった。そこには「雨の日は会えない、晴れた日は君を想う」とあり、ジュリアは晴れたに日しか使わないサンバイザーに託して心の内を明かしている。ハッと気がついたデイヴィッド。愛は伝えないと返ってこない。自身の不甲斐なさに涙するデイヴィッド。組み立て完了。目玉がぎょろっとした特異な風貌のジェイク・ギレンホールが風変わりな男を演じて異彩を放つ。
監督
ジャン=マルク・ヴァレ1963年3月カナダ、モントリオール生まれ。2013年「ダラス・バイヤーズクラブ」、2014年「わたしに会うまでの1600キロ」などの作品がある。
キャスト
ジェイク・ギレンホール1980年12月カリフォルニア州ロサンジェルス生まれ。
ナオミ・ワッツ1968年9月イギリス、ショアハム生まれ。
クリス・クーパー1951年7月ミズーリ州カンザスシティ生まれ。
ジュダ・ルイス出自不詳。俳優・脚本家のマーク・ルイスの息子。
ヘザー・リンド1983年3月ペンシルベニア州生まれ。ジェイク・ギレンホールの妻としてすぐに死んでしまう役どころ。こういう役をどんな気持ちで受けているのだろうと思ったりする。競争の激しい世界だからオファーがあるだけよしとするんだろうか。2015年制作 劇場公開2017年2月