33度の急勾配を1分で昇り降りする片道1ドルのロサンゼルスにあるエンジェルズ・フライト・ケーブルカーの中で射殺事件が発生する。殺されたのは人権派弁護士ハワード・エライアス(クラーク・ジョンソン)だった。
検事出身のエライアスは、警察による暴力事件を専門としていて「ロサンゼルスの殺人課刑事は無実の人を拷問した」と言ってはばからない。警官たちの敵意が見える。白人の子供を誘拐したとして逮捕したハリス(キーストン・ジョン)を刑事たちは拷問にかけたが、子供の遺体が発見され犯人は父親と判明。ハリスは無罪放免となったが損害賠償をめぐっての裁判が、エライアスの弁護で行われようとしていた。その矢先の殺人事件。
連絡を受けて現場に到着したハリウッド署のボッシュ刑事(タイタス・ウェリヴァー)に、本部長のアーヴィン・アーヴィン(ランス・レディック)から「この事件の特捜班を設ける。君に指揮をとってもらいたい。ロバートソン刑事(ポール・カルデロン)、ピアス刑事(ダジュアン・ジョンソン)、それに監査課の女性刑事二人、スナイダー(ウインター・アヴェ・ゾーリ)とリンカーン(タンべリア・ペリー)をつける」
ボッシュは、スナイダーと聞き顔を曇らせる。過去にスナイダーの監査で意地悪な質問を思い出したからだ。スナイダーとリンカーンがボッシュに挨拶したが、ボシュは無愛想だった。
ボッシュの幼少期は、恵まれた家庭環境ではなかった。キレイな母親は娼婦だった。母親が殺されたためボッシュは施設で育った。母親を殺した犯人は見つかっていない。その犯人逮捕も生涯の仕事と考えている。 が、当面エライアス事件が解決するべき案件だった。
ボッシュはレベルの高い捜査能力を持っているが、感情に走りやすく気質も難しい。一匹狼的な存在。しかし、ときには単独はあるにしても捜査は二人で行うのが決まりになっている。
狙撃を受けたパートナーだったジェリー(ジェイミー・ヘクター)が療養開けに復帰してくる。狙撃はジェリーの家庭に溝を作った。妻は刑事の仕事を辞めて欲しいと願っている。しかし、ジェリーはこの仕事が好きで、退職なんて考えたくもない。
ジェリーは目的地に行く車の中で「裏切らないでくれ」とボッシュに言う。過去に悔しい思いをしたことを思い出させるジェリー。ボッシュはあいまいな態度。
ボッシュにはFBIの心理分析官だったエレノア・ウィッシュ(サラ・クラーク)との間に生まれたマディ(マデリン・レンツ)という娘がいる。もう大学に入ろうという年ごろ。エレノアとは別れていて、眼下にロサンゼルスの街を見渡せる家に娘と住んでいる。
エレノアは中国人のレジーという男と結婚していたが、今は別居してFBIの潜入捜査官をしている。フロリダでカジノのポーカー係の経験を生かして夜な夜な開かれるポーカー・ゲームの会に現れる。監視が主な任務のエレノアが何を狙っているのか定かでない。
FBIは何を画策しているのか、FBIがベラベラと一地方のハリウッド署の刑事に詳細を話すわけがない。エレノアは中華料理店閉店後のカード・ゲームに参加した。カモの中国人という情報でお安い御用だ。ところが突然ポーカーが中止となり、世話役が「帰れ、帰れ」と急き立てる。通用口に向かって歩いていると、客の若いカモと言われた男が殴られているではないか。
エレノアはトイレに駆け込んでスマホのレンズをカバンから少し出して、通りすがりに暴行現場を撮影した。止めた車に向かうエレノアを、背後の高い窓から一人の男が眺めている姿があった。
一方、エライアス事件で容疑者として拘束した刑事のフランク・シーアン(ジェイミー・マックシェーン)は、ハリスへの拷問は認めたが、エライアス殺害は否定した。この事件に関連して地元の活動家が「真実、透明性、説明責任そして正義という武器で、ハリウッド署まで行進し、被害者たちとロサンゼルスのために正義を訴える。警察にこそ今こそ裁きを」というデモ計画もあり、ハリウッド署の前は騒然としている。
地道な捜査が続けられているさ中、エレノアから相談があるという電話を受ける。ボッシュは「デュパーズ」で15分後に会おうという。デュパーズはファーマーズ・マーケットにあるオープンテラスのカフェで、向かい合って座りエレノアの話を聞く。
要点はレジーとの関係とFBIの捜査の件だった。FBIの要望でレジーのおじの身辺捜査だが、レジーも中国マフィアに戻ったこと。そして、中国政府にパスポートを没収され2週間拘留されてたこと。おじの身辺捜査をしたことでレジーは激怒。レジーは「おれかFBIかどちらかを選べ」と言い。エレノアは「おじか私たちかを選べ」と言ったが、彼は私たちを選ばなかった。「バカな男だ」とボッシュ。
エレノアは「仕事があるでしょ?」と言って駐車場に向かった。ボッシュがテーブルに目を這わせるとエレノアのスマホが置き忘れられてあった。それを手にして「エレノア、君のスマホだ」と呼びかけると同時に二人の男が乗ったバイクから二発の銃弾がエレノアに撃ち込まれた。胸を撃たれたエレノアは、そのまま帰らぬ人となった。
まるで遺言のようなデュパーズでの会話がボッシュに重くのしかかる。失意はマディをさいなみ父と子の関係までもギクシャクとしたものになった。たとえ肉親の死があろうとも、時間は容赦なく過ぎていく。数日の心の休息を経て特捜班の部屋に戻ったボッシュ。
ようやくボッシュとも会話を始めたマディは、ボッシュに行き先の電話を入れて、殺伐とした砂漠に通る道路をチェロキー・ジープを駆る。母エレノアとのツーショットの背景を探し求める。母の遺言は「火葬にして遺灰をあの荒涼とした砂漠に撒いてほしい」というものだった。
そして、ようやく謎が解けたとボッシュは確信する。最後は意外な事実が明らかになる。確かな構成で銃撃戦とか派手なカーチェイスはないが、しっとりとした情緒も漂うミステリー・ドラマになっている。
マイクル・コナリー本にはお馴染みの実在するお店や場所、それにジャズも取り入れてあってにやりとする瞬間も楽しめる。ロサンゼルスで観光地としても有名なファーマーズ・マーケットでボッシュとエレノアが相談した場面とか、警察の証拠品保管室でラジオからジャック・ティーガーデンの演奏が流れるのに気づいたボッシュが「ボリュームを上げてくれないか。もうすぐベン・ウェブスターが始まる」
ここで私にも気付かされたことがある。証拠品の段ボールを持ってきた警官が「サインと母印を」と言った。母印? どうするんだろうと思っていたら、指紋採取用のあの黒いインクを親指につけて押していた。なるほどサインだけで通用しないところもあるんだ。新しい発見だった。
さらに、エンジェルス・フライトというケーブル・カーも観光地として有名だが、この地下に空間が広がっている。このロケ地も有名になるかも。なお、メイン・タイトル・ソングは「Can't Let Go(手放せない)」by Caught a Ghost
製作総指揮
エリック・オーヴァーマイヤー1951年9月コロラド州ボルダー生まれ。
マイクル・コナリー1956年ペンシルヴェニア州フィラデルフィア生まれ。
ジョン・マンキウィッツ1954年2月ニューヨーク生まれ。
キャスト
タイタス・ウェリヴァー1961年3月コネチカット州生まれ。製作も関与。
クラーク・ジョンソン1954年9月ペンシルヴェニア州フィラデルフィア生まれ。
サラ・クラーク1972年2月ミズリ州セントルイス生まれ。
マディソン・リンツ1999年5月ジョージア州アトランタ生まれ。
ジェイミー・へクター1975年10月ニューヨーク市ブルックリン生まれ。
アミー・アキノ1957年3月ニュージャージー州生まれ。
ランス・レディック1962年メリーランド州ボルチモア生まれ。
ジョン・ゲッツ1946年10月アイオワ州生まれ。
ジェイミー・マックシェーンニュージャージー州生まれ。
ダジュアン・ジョンソン出自未詳。
ポール・カルデロン1959年プエルトリコ生まれ。
ウィンター・アヴェ・ソーリ1980年3月ペンシルヴェニア州ニューホープ生まれ。
ダンべリア・ペリー出自未詳