閉鎖が決まった病院で助産婦として働くクレール(カトリーヌ・フロ)の留守電にメッセージが残されていた。「ベアトリスよ。電話して!」電話番号を告げる言葉で終わる。
ベアトリス(カトリーヌ・ドヌーヴ)は、自由奔放に生きた女でクレールの父と結婚したがすぐに行方をくらました。そんな女をクレールが歓迎するはずがない。しかも生みの親でないベアトリスは義母になる。内心腹立たしい。それでもクレールは電話をした。
助産婦として働くクレールは49歳のベテランで何人も赤ちゃんを取り上げてきた。実直で真面目なクレールは、周りから信頼されている。ベアトリスとは対極にある女性だった。
ベアトリスの目的は、クレールの父に会うことだった。腫瘍のがんに犯されているベアトリスは、30年も音信不通だったが生涯最後の赦しを求めていた。しかし、クレールから聞かされたのは、「父はもういない。自殺した」というものだった。
そんな二人が泣き笑い怒り、そしてベアトリスはキスマークがある手紙を残して姿を消す。カトリーヌ・フロもカトリーヌ・ドヌーヴも役柄にぴったりだし、久々にカトリーヌ・ドヌーヴを堪能した。
ルージュの手紙を残したセーヌ川上流の家庭菜園で、クレールがベアトリスに思いを馳せる場面は、ベアトリスというよりもカトリーヌ・ドヌーヴがいなくなった寂しさをこちらは感じていた。
ベアトリスは貧しい生まれなのに「ロシアの血を引いたハンガリーの王女」という作り話でクレールの父を騙した。今になっても「私の作り話を信じるとは、おめでたい人ね」なのだ。
さて、フランスといえばワイン。劇中にも頻繁に出てくる。れっきとした一流のレストランでもないカフェ・テラスのようなお店でもこんな会話が交わされる。
ベアトリス「コート・ボ・ボーヌ?」
店主「ジュブレ・シャンベルタン2013年だ」
コート・ボ・ボーヌは、ブルゴーニュ地域圏コート・ドール県南部にあるワイン生産地。日本では1万円前後で売られている。ジュブレ・シャンベルタンは、ブルゴーニュ=フランシュ=コンテ地域圏コート・ドール県のコミューン。これも1万円前後。
ワインとフランスの狭い街角に庶民の生活が垣間見える映像に、いまだ衰えない色香のカトリーヌ・ドヌーヴの余韻は長くあとを引いた。
監督
マルタン・ブロヴォ1957年5月フランス生まれ。
キャスト
カトリーヌ・フロ1957年5月フランス、パリ生まれ。2015年「偉大なるマルグリット」でセザール賞主演女優賞受賞。
カトリーヌ・ドヌーヴ1942年10月1998年「ヴァンドーム広場で」で、ヴェネチア国際映画祭女優賞受賞。
オリヴィエ・グルメ1963年7月ベルギー生まれ。2002年「息子のまなざし」でカンヌ国際映画祭男優賞受賞。