ピーター・サザーランドは、身長198センチ、体重99キロ、濃紺のスーツに白いシャツ、黒いネクタイ、きれいに磨かれたオクスフォードシューズを履いたFBI捜査官だったが、今はアメリカの秘密が詰まった聖域、ホワイトハウス西棟地下にある危機管理室―――立入制限区域の夜間勤務についている。
シークレットサービスのチェックを受け、メインの監視センターに並ぶ横長のデスクについたCIAのマークやペンタゴンのジェシカから軽口やうなずきの挨拶を受けて、パーティションがある棚のついたスペースが仕事場なのだ。
ここで一向に鳴らない緊急連絡電話番をするわけだ。ただ、ぼんやりと鳴るのを待っているわけではない。毎晩、大統領首席補佐官ダイアン・ファーか、その部下からの最新情報と懸案事項のリストが送られてくるのを分析するという仕事がある。
この電話は、284晩前に一度鳴ったきりだ。午前1時5分電話が鳴った。「ナイト・アクション。そう言うように言われたの。それで分かるって。私はローズ・ラーキン――」
こうして大統領の犯罪かと思わせながら大統領首席補佐官ダイアン・ファーの陰謀が明らかになるという政治サスペンス。追われるピーターとローズ。飽きないテレビドラマを観ているようで、アクションとスリルとほのかなラブ・シーンが色を添える。
エンディングは、ローズが殺された叔父・叔母の家で叔母の好きだった曲、スティービー・ワンダーの「I Just Called to Say I Love you」を口ずさみ、両腕をピーターのうなじにまわすのだった。
この本のいいところは、ホワイトハウスについて日頃新聞のニュースでは知ることのできない部分が分かるというもの。
例えば、ホワイトハウス西棟の職員用の特別割引きがあるGストリートの立体駐車場のこと。職員であっても有料の駐車場なので、意外とホワイトハウスはケチなんだと分かる。
さらに標的を尾行する方法とか車で尾行をまく方法とか、ある種のノウハウが開陳されている。
最終的にピーターとローズは、安全のためにアメリカ大統領専用ホテルともいうべきブレアハウスに案内された。
ホワイトハウスからペンシルベニア・アベニューを挟んだラファイエット広場に面するレンガ造りの屋敷は、主に海外からの要人が滞在する施設であり、伝統から大統領も就任式の前日に宿泊することになっている。十九世紀のタウンハウス四軒がつながった不思議な空間で、外からはそれぞれ独立した別の建物に見えるが、中は一つの大きなゲストハウスになっている。実質的には大統領個人の贅沢なホテルだ。
厨房からパスタ・プリマヴェーラとブラウニーが届けられた。(これは、昔ながらのケネディ大統領のレシピとある)パスタ・プリマヴェーラは、春野菜のパスタとしていろんなレシピをネットで見ることができる。ブラウニーは、チョコレートを載せたケーキでデザートになる。ワインのことは書いていないが、わたしの好みからはすっきりとしたフルーツの香りがある白ワインがいいかも。
いずれにしても、ひねりのきいたストーリー展開で楽しませてくれた。では、スティービー・ワンダーの「I Just Called to Say I Love you」を聴きましょう。