Wind Socks

気軽に発信します。

読書「グレート・ギャツビーを追え」ジョン・グリシャム 

2021-08-18 18:15:58 | 読書
 5人の男、美術工芸品専問の窃盗犯、元陸軍レンジャー部隊員、2度の脱獄犯、保釈中の美術品窃盗犯、元CIAのハッカーが、名門中の名門ニュージャージー州にあるプリンストン大学ファイアストーン図書館から、巧妙な手口を使って1950年にF・スコット・フィッツジェラルドの娘が寄贈した「美しく呪われしもの」「夜はやさし」「ラスト・タイクーン」「グレート・ギャツビー」「楽園のこちら側」の直筆原稿を盗み出した。
 しかし、二人の美術品専門窃盗犯がFBIに逮捕され、2度の脱獄犯は、元陸軍レンジャー部隊員によって殺害される。理由は、この脱獄犯には弱さがある。ということは、裏切り者になる可能性があるということで消された。逮捕された男たちは、容易に口を割らなかった。FBIは苦境に立たされた。

 完璧に糊をきかせたカーキのショートパンツに、シャンブレーのシャツ、木綿のセーターを肩にかけている。まるでJクルーのカタログからそのまま抜け出してきたモデルのようだ。モデルのような女性が口を開いた。
 「こんにちわ」その女性は、イレイン・シェルビーという。彼女は、警備と調査を専門とする会社に勤めている。その会社のクライアントの保険会社が、プリンストン大学が所有するF・スコット・フィッツジェラルドの五つのオリジナル原稿に2500万ドルの保険を引き受けている。6か月以内にその原稿が現れない限り引き受け保険料を支払はなくてはならない。大学側がお金を欲してはいない。むしろ原稿現物のほうなのだ。

 そして「こんにちわ」と言われたのが、若くて美しいマーサー・マン。マーサー・マンは、24歳で「十月の雨」を出版、売り上げもよかった。全米図書賞の候補になりベン/フォークナー賞の最終リストに残った。短編小説集も出している作家である。

 しかし、今は勤めていた大学教諭の職も解かれ。スランプに陥っている。だからというわけではないが、フロリダ州カミーノ・アイランド(ここはどうやらジョン・グリシャムの創作のようだ)のコテージで、幼少のころ祖母に育てられたマーサー・マンが適任に思える。

 そういうわけで、この島で営業するベイ・ブックスのオーナー、ブルース・ケーブルという人物が非常に怪しい。確信をもってそれは言えるということで、マーサー・マンに島に戻ってさりげなく接近してほしいというもの。6ケ月の仕事で10万ドルを(約1000万円)払うと。無職で学資ローンの返済も重荷と言うことで引き受けざるを得なかった。

 巧妙なシナリオに従って動き出し、書店の著者のサイン会を兼ねた販売促進にも顔を出しブルースに近づく。このブルース、マーサーに言わせれば「素敵な微笑みや、優雅な身のこなし、ハンサムな風貌、ユニークな身なり、あのウィットと知性、作家たちに対する熱い敬意、恋人としての技能、周囲に対する存在感、彼の友人たち、彼の評判、時として強く人を惹き寄せるカリスマ性のある男」だ。

 ここでいうユニークな身なりは、シアサッカーの背広にボウタイといういでたち、さらに恋人としての技能は、言わずと知れたセックス・テクニックのことを指す。これに溺れ始めるマーサーではある。

 そして究極の目的、盗まれたF・スコット・フィッツジェラルドの五つのオリジナル原稿のありかをブルース自身がマーサーに見せる。

 ここまで読めば、誰でも結末を予想するだろう。私は、マーサーが約束通りイレインに事実を報告し、ブルースにも真実を伝えイレインを裏切るのではないかと思った。

 しかし、ブルースが一枚上だった。この本のエンディングが多いに気に入った。2500万ドルを手にしたブルースが、マーサーの前に現れ、島に戻ってくれ、今までのように作家たちと楽しもう。それに対してマーサーは「それはすごく素敵なことだわ、ブルース。でもあなたと一緒にいると、私はいつも気を引き締めていなくちゃならないの。私はあそこに戻るかもしれない。でももう色恋沙汰はごめんよ」

 彼は彼女の手をぎゅっと握り、立ち上がった。そして言った。「それはそのときのことだ」彼は彼女の頭の上にキスをして言った。「とりあえず、さよなら」

 なんて粋な奴なんだブルースは、あわてず騒がず、時を待つという。マーサーも魅力的な女性で、会ってみたいと思わせる。私の人生で一度はこういう場面、こういう場面と言うのは、マーサーのような女性に会いブルースのようにふるまうことに遭遇したかった。

 ジョン・グリシャムは、続編があるような書き方で終わらせているが、あるのだろうか。こういうエンディングにふさわしい音楽もあるのだろうか。探してみた。

 ポピュラー&ジャズ歌手のマイケル・ブーブレが歌う「Love you anymore こよなく愛している」。

 さらに本書の翻訳は、村上春樹。そのいきさつは、訳者あとがきにある。そしてこの本の続編もあるとのこと。
それではマイケル・ブーブレで「Love you anymore」をどうぞ!