Wind Socks

気軽に発信します。

読書「円周率の日に先生は死んだTHE DISTANT DEAD」ヘザー・ヤング著ハヤカワ・ミステリ文庫2023年刊

2023-09-04 15:00:34 | 読書
 ある年の3月14日円周率小数点以下10桁が3.1415926535の最初の三桁をとって円周率の日とした。そして数学の日とも言われる。その日、ネバダ州ラブロックという人口2,000人の小さな町からさらに奥まったところにあるマルゼンという集落で数学教師アダム・マークルの焼死体が発見される。

 通報したのはアダムと親しくしていた教え子の12歳のサル・プレンティス。その通報を受けたのが消防ボランティアのジェイク・サンチェス。アダムの死を知り悲しみながら、事件の謎を追う社会科教師ノラ・ウィートン。登場する人物にはすべて暗い事情があったりそれを抱えている。

 死体となってしまったアダムには、ベンジャミンという息子がいた。アダムは薬物の過剰摂取で運転事故を起こし、ベンジャミンを亡くした過去を持つ。

 サルには母親がヘロインの注射で口から泡を吹き絶命という過去を持ち、母の兄弟ギディオンとエズラの世話になっている。

 かつてサルの母親に思いを寄せたことのあるジェイク。

 ノラの家も父親が起こした交通事故で息子を亡くしている。妻も他界した父親は、庭の一角においてある、かつて旅をしたキャンピング・カーで起居している。午前中に泥酔してしまうという悲惨な毎日。いずれ父親も死ぬだろうから、その時を機にこの町から出て行って新しい人生を構築しようと考えている。

 そんな中で徐々に真相が明らかになっていく。著者の独特の文体に魅了されながら、確かな人物描写とほのかに漂うユーモアに口元を緩めながら読み進むのは至福の時と言える。

 数学的な味わいの一つ、なぜ1時間が60分なのか。「それは古代文明まで遡る歴史的な慣習である。紀元前2000年頃、バビロニア人は60進数の数値体系を使用していた。 この数値体系には、2、3、4、5、6 などの因数による割り算が容易であるなど、いくつかの利点があり、天文学、数学、計時などのさまざまな分野での計算と測定がより管理しやすくなった。この時間の区分は、古代ギリシャ人やローマ人など、さまざまな文化や文明を通じて受け継がれ、時間管理にこの 60 進法を使い続け 時間が経つにつれて、この慣例は私たちの時間の理解に深く浸透し、他のほとんどの測定に 10 進数ベースのシステムが採用されているにもかかわらず、現代でも使用されている。したがって、1 時間が 60 分に分割される理由は、バビロニアの 60 進数法の歴史的影響によるもであり、バビロニアの 60 進数法には、計算と割り算に利点があり、それが時間管理の実際的な選択となった」とはいうものの原題(THE DISTANT DEAD遠くの死者)とは相いれない邦題になっている。3月14日数学の先生が数学の日に死んだというだけで、主題は別のところにある。最後まで読むとわかるでしょう。 が、私にはよくわからなかったのが難点か。
ヘザー・ヤング、2016年に「エヴァンズ家の娘」でデビュー。アメリカ探偵作家クラブ賞最優秀新人賞候補となり、ストランド・マガジン批評家賞最優秀新人賞を受賞した。サンフランシスコ在住。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする