77分という短い時間に描かれる濃密な人間の心には、ひたすら畏敬の念を覚える。19歳の海兵隊兵士チャンス・フェルプスは、2004年イラクで戦死した。
チャンス兵士を故郷に送り届ける任務を希望したのはマイク・シュトローフル中佐(ケビン・ベーコン)だった。彼には妻と二人の子供を抱える家庭もあった。送り届ける一週間の旅に妻はやや不満だ。しかし、マイクにはこれをどうしても完遂する必要があった。
デラウェア州ドーバー空軍基地からペンシルベニア州フィラデルフィア、ミネソタ州ミネアポリス、モンタナ州ビリングスそしてチャンスの故郷ワイオミング州の田舎町まで、棺を車に乗せるときと降ろす時、飛行機に乗せるときと降ろす時、マイクはゆっくりと右手を挙げて挙手の礼で応える。
東海岸から西海岸に横断する長旅、飛行機や車を乗り継ぐ毎日。都合で棺を格納庫に一夜置くことになり、マイクは棺の傍で過ごすという。空港職員は寝袋を持ってきてくれた。
いよいよ最終行程。葬儀社から迎えが来る。マイクは霊柩車の後をレンタカーで追尾する。この霊柩車は、外から星条旗に包まれた棺が見える。山や緑に包まれた道路をゆっくりと走る霊柩車。追い抜こうとする大型トラックは急に減速する。目ざとく見つけたのは星条旗、トラックのヘッドライトが点灯される。後から来た車すべてがライトを点して隊列を組む。国のために命を捧げた兵士への敬意が感じられるいい場面だった。
そして遺族と対面して遺品を手渡す。時計やペンダント。血ぬられていたこれらを、丁寧に拭き取られている。マイクは飛行機の中で客室乗務員から貰った十字架を「これは自分に貰ったのではなくて、チャンスに捧げるものだと分かった」と言って遺族に渡す。
マイクは心に負い目を抱えていた。朝鮮戦争に従軍した高齢の元兵士に「私は行くべきだった。私に出動命令が下ることは分かっていた。だが、それに気づかないふりを続けた。戦死者リストを確認し知人の名がないことを祈って夜を過ごした。なぜ、こうなったか。妻と子供のいる生活に慣れ過ぎたのかもしれない。だから内勤希望を出し認められた。戦場に出ない私は兵士ではない。チャンスは本物の海兵なんだ」
「あなたは違うと? 家族と過ごしたいという願いは悪ですか? 自分を責めないで。彼を護衛した証人なんですよ。証人が消えれば故人も消えてしまう」と元兵士。
墓地に置かれた棺に最後の敬礼を捧げてチャンスを送り、自宅のドアを叩いた。どうしてもこれをやり遂げたかったのは、チャンスへの心からの鎮魂とともに自らの魂の安寧を求めたからにほかならない。暖かい光の中で子供たちとマイクの晴れ晴れとした声が賑やかだった。
一つの死が生きる糧として、もう一つの肉体に宿る。ケビン・ベーコンの控え目で苦渋の表情が印象的だった。2009年制作のテレビ映画。DVDセル&レンタルなし。
監督
ロス・カッツ1971年5月フィラデルフィア生まれ。2016年「きみがくれた物語」がある。
キャスト
ケビン・ベーコン1958年7月フィラデルフィア生まれ。
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