(映画)監督 リドリー・スコット、キャスト マイケル・ファスベンダー、ペネロペ・クルス、キャメロン・ディアス、ハビエル・バルデム、ブラッド・ピット。(脚本)コーマック・マッカーシー、2013年早川書房刊
コーマック・マッカーシーの書き下ろし脚本を基に、リドリー・スコットが監督して出来上がった映画だが、批評家の採点が低くコメントも批判的なのが多い。私も期待外れの烙印を押したい。象徴的な豹2頭の扱い以外、女優に魅力がないし主演のマイケル・ファスベンダーの声がざらついていて女たらしの魅力が発揮できていない。あのハンサムなブラッド・ピットも精彩がない。私的にはハビエル・バルデムの脂ぎった粘着質な演技には注目した。それでも獲物を狩る豹のように、メキシコの麻薬カルテルに簡単に射殺されてしまう。死に際が凄惨で恐ろしいのは、ブラッド・ピットだ。ボリートと呼ばれる殺人器具だ。首にひょいとワイヤー付きの首輪をかけられれば、もう絶体絶命強靭なワイヤーがモーターの作動で外せないしワイヤーも切れない。ブーンという悪魔の音とともに頸動脈が切れるのを待つしかない。おびただしい血が噴出して痙攣とともに静かになる。
物語は主人公の弁護士(マイケル・ファスペンダー)が恋人のローラ(ペネロペ・クルス)といちゃつく場面から始まる。脚本では真っ暗な部屋になっているが、映画ではテキサス州エルパソにある弁護士の部屋。午後の2時、明るい部屋で白いシーツに絡まりながらの会話。
弁護士「僕にどうしてほしい。言えよ」
ローラ「私に触って!」
弁護士「どこを?」
ローラ「ずっと下の方よ」
弁護士「本気かい?」
ローラ「ええ、そうよ」
弁護士「もっとセクシーに」
ローラ「触って」
弁護士「もう濡れてる?」
ローラ「ええ」
弁護士「本当だ」
この弁護士、恋人を愛するがゆえに一生に一度の大儲けを企む。禁断の麻薬ビジネスなのだ。ところがどう間違ったのか、メキシコの麻薬カルテルに命を狙われる羽目になる。そしてすべてが「手遅れだ」と嘆くしかない。
結局、麻薬の金2000万ドル(約30億円)は、ハビエル・バルデムの恋人キャメロン・ディアスに横取りされる。彼女は投資の金以外は、ダイヤモンドに換えて香港に高飛びを考えている。豹が獲物に飛びかかり貪り食うのがセクシーだという彼女の心情そのままなエンディングと言える。
こういうガラの悪い映画であっても、高級レストランで流れる音楽はテイラー・スウィフトでなく、アンネ=ゾフィー・ムター独奏のモーツァルト「ヴァイオリン協奏曲第2番」なのだ。
脚本を書いたコーマック・マッカーシーは、1933年ロードアイランド州生まれ。大学を中退すると、1953年に空軍に入隊し四年間の従軍を経験。その後作家に転じる。1973年「チャイルド・オブ・ゴッド」や、1985年「ブラッド・メリディアン」の発表などにより評価を高め、(国境三部作)の第一作となる第六長編1992年「すべての美しい馬」で全米図書賞、全米批評家協会賞をダブル受賞した。続いて三部作の第二作1994年「越境」、第三作1998年「平原の町」を発表。第十長編2006年「ザ・ロード」はピューリッツアー賞を受賞した。映画脚本として書かれた本書は、リドリー・スコット監督により映画化された。名実ともに現代アメリカ文学の巨匠である。
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