朝、目が覚めるのが怖い。夢の中の自分はスポーツ万能でスキーやサーフィン、ダイビング何でもござれで、その上ハンサム、さらにお城に住む由緒ある家柄、そして事業に成功している青年実業家ウィル・トレイナー(サム・クラフリン)だった。目が覚めると四肢麻痺で首から下は動かない。その現実に戻るのが怖い。
雨の強く降る朝6時30分、恋人の温もりから外に出たときバイクがウィルを直撃する。脊髄損傷の四肢麻痺で人生は暗転する。気難しく塞ぎがちになったウィル。
彼の母親は、介助をする女性を募集する。職安で紹介されてきたのは、ルイーザ・クラーク(エミリア・クラーク)だった。何の混じりけもない心を持ち明るい性格の彼女は、廃業で辞めたパン屋でも人気のルイーザだった。
6ヶ月限定の就職。それはウィルが生きるのに耐えられずスイスにある自殺幇助機関「ディグニタス」で人生を終わらせるまでの期間だった。ルイーザは、ウィルが生きる希望を持てるようにあらゆる機会を提供する。
街に出かけたり、音楽会に行ったり、遠く旅をしたり、こんな二人はやがて恋に落ちる。ある夜の海辺、熱いキスのあとウィルが言う。
「君を縛りたくない。ボクのために普通の幸せを逃すなんて、いつか君が少しでも後悔するのを見たくない。妙な格好で歩き回る君や、裸の君を見ても何も出来ないなんて、どんなに抱きたいか君には分からない。このまま、生きられない」
「やめて! それ以上言わないで。勝手すぎるわ。想いをさらけ出したのに“ノー”を繰り返すだけ。その上、最悪の事態を見届けろなんて、どれほど残酷か。この仕事にもあなたにも出会わなければよかった」と言って去っていった。
ルイーザは悩んでいた。本当の愛とは? 父の言葉で決断した。彼の最後を見届けて記憶にしっかりと焼き付けること。ルイーザはスイスへ。
病室で最後のキス。ウィルが「両親を呼んで」そう、命を絶つための薬物の摂取だ。パリの街角のカフェテラスで手紙を読むルイーザ。
「ルー、これを読むのは数週間後で指示に従ってればパリの舗道のイスに座っているはず、天気ならいいが。橋を渡ると香水ショップが見える。“パピオン”を試してみて、君に似合う香りだ。
君が感情的になると思って伝えられなかったことがある。今、言うよ。ローラーに託した口座の金で新しいスタートを、一生遊んで暮らせる額ではないが“自由”は買えるしあの街を出ることは出来る。果敢に生きろ、落ち着いたりするな。
君の溢れる可能性が花開くきっかけになったら嬉しく思うよ。それじゃ、お別れだ。君は心に刻まれているよ。初めて会ったときから可愛い笑顔と奇妙な服とクサいジョークと感情を隠せない素直さで。僕を焦がれるな、悲しんで欲しくない。健やかに生きていけ。僕は君と共にいるから、君のウィルより」
止めどなく流れる涙をとめることができなかった。そして、演じた二人の俳優の爽やかさが印象に残った。
それではどのように自殺幇助を行うのだろうか。ウィキペディアを引用しよう「ディグニタスの書類審査に通れば医師やカウンセラーと複数回以上の面談を行い決定する。 クールダウンの時間を十分に取るように面接の間隔があいている。スイスの法律に認められた書類に署名する。
致死薬投与の直前には最終の意思確認が行われ、考え直す時間が必要かどうか尋ねられ、最後まで自由意志で撤回も選択できるようにされている 。
用いられるものは、制吐剤 ネンブタール、 マグカップ、 水 、電子レンジ、 濃縮果汁タイプのシロップ、 オレンジピールのチョコレート。
居心地の良い高級ホテルのような部屋で、リラックスできる環境と安心感を与える幇助者のもとで行われる。
致死量を超える粉末状のネンブタールを1杯の水に溶かし、レンジで加熱したものにオレンジ系の濃縮果汁シロップを加えて飲み易く味を整える。果汁の中でもオレンジ系がもっとも飲み易い。
加工したネンブタール液を服用する30分前に強力な制吐剤を服用させる。 制吐剤の座薬を併用するのも可である。
また、ネンブタールは苦味があって飲みにくいため、オレンジピールの入ったチョコレートを用意しておき、薬を飲んだ後素早く口の中に入れて齧る。
ネンブタール過剰摂取は、生体反応により嘔吐を起こすが、電子レンジで薬の濃度を濃縮し、加工することで、嘔吐や拒絶反応を起こすことなく、確実に中枢神経系を停止させることを可能にしている。濃度や電子レンジの加工時間は企業秘密で、非公開とされている。
致死量を摂取したクライアントは、5分以内に次第に呼吸が浅くなり昏睡状態へと移行し、30分以内に呼吸が停止し死に至る」とある。
これは想像するだけで息が詰まりそうになる。しかし、眠るように死ねることも確かのようだ。
この映画のサウンドトラックがCDになっているが、その中で最もふさわしいと思う曲「Don't Forget About Me」をClovesでどうぞ!
劇場公開2016年10月
監督
テア・シャーロック出自不詳、女性監督。
キャスト
エミリア・クラーク1987年5月イギリス、ロンドン生まれ。
サム・クラフリン1986年6月イギリス・イングランド生まれ。
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