今回の写真は全てWikipediaからのものです。
2012年11月のこと、ニーダーエステライヒ州の難民収容施設の人々が、劣悪な待遇に抗議するためウィーンまでデモ行進し、このブログに
繰り返し登場する教会前の広場に抗議キャンプを張りました。
当時の様子

教会側から撮影された写真
この抗議キャンプは12月28日に警察によって撤去されました。それでも抗議を続けるため、63人が、いつもの教会(
ヴォティーフ教会)に避難しました。
その様子

教会内の温度は3度前後
彼らはハンガーストライキも行いましたが事態は膠着し、2013年3月からヴォティーフ教会に近いセルヴィーテン教会に引き取られました。この間、27人の難民申請が却下され、8人はパキスタンに強制送還されました。
裁判も始まり、数人は「不法難民輸送」の疑いで起訴されました。大衆新聞は「悪質な犯罪組織」と書き立てましたが、別の新聞が起訴書類を点検したところ、そうした内容はありませんでした。
この事態はまだ続き、明快な収束はありません。抗議行動を起こした人々に対する扱いは、カトリック教会の慈善団体カリタスや人権保護団体などから批判されています。
特にノーベル文学賞受賞作家
エルフリーデ・イェリネクは
この事件をテーマに「Die Schutzbefohlenen」という戯曲を書きました。
この題名は
アイスキュロスのギリシャ悲劇「
救いを求める女たち」に依拠したもので、直訳すると「保護を命じられた人々」となります。
難民抗議キャンプに関する出典は
ドイツ語ウィキです。
この戯曲は、何故か先ずドイツで初演され、ドイツの数都市で上演された後、去年の秋からブルク劇場で上演され、私も11日に見てきました。
ギリシャ劇の形式を用い、出演者は
コロスを形成しています。
難民の中には、博士号をもつ学者や医者その他専門職の人々もいるのに、戦争や独裁政治などの理由から故郷を逃れたとたん十把一絡げに「難民」になってしまうのです。
従って彼らはギリシャ劇のように仮面であらわれます
劇の進行とともに彼らは個人となります

舞台一面に張られた水は地中海を表すものでしょう
劇の後半で突然、豪華な舞台衣装の女性がアリアを歌い・・・

・・・すぐに上手へと消えます
この場面は、ロシア出身の名高いソプラノ歌手が、国籍申請と同時にオーストリア国籍を授与されたことを示唆しているものと思います。「ああ、あの歌手」と思いつく方々もあると思いますのでリンクはしません。
戯曲の最後に難民のコロスが
私たちは、やって来た。だが、私たちは存在しないのだ
と2回繰り返し舞台が暗くなって幕となります。
4月にはリビア沖で重大な
難民船遭難事故が起こりました。
シリアの内戦を始め戦闘の続く様々な国から難民が急増しています。
欧州連合では加盟各国に割り当て人数を設けようという話が出ていますが、反対する国々もあります(これらの国々は、僅かしか難民を受け入れていない国々です)。逆に、ドイツ、オーストリア、スイス(スイスは欧州連合メンバーではありませんが)は、想定割り当て人数より多くの難民を受け入れています。
この難民割り当て方式に、オーストリアでは緑の党が賛成し、ネオナチ党は難民受け入れそのものに反対しています。
難民受け入れに反対する人たちは「彼らはヨーロッパで生活手当てをもらって楽に暮らそうとする偽者だ」あるいは「難民を装って潜入しようとするテロリストだ」と言いますが、そういう「難民」は極く一部だろうと思います。
既に
死の海で紹介したように、地中海はヨーロッパを目指す難民の主要ルートです。地中海に長靴状に突き出すイタリアは、難民受け入れ最前線です。2013年10月から2014年10月まで、イタリア独自の難民救出プロジェクト「
マーレ・ノストルム」では15万人の難民が救出されています。このプロジェクトが1年間で終わりになったのは、ひとつには予算の問題だろうと思います。その後、欧州連合による境界警備プロジェクト「
トリトン」が始動しましたが、救済を主眼とした「マーレ・ノストルム」とは違い、出来るだけ難民を入れないよう欧州連合の領域を守ると言うのが主旨です(難民追っ払い作戦)。
上にリンクしたトリトンに関するSWIの記事は非常に良い記事だと思います。お時間が有れば是非お読みください

そもそも、この記事に関する基本データとして、諸国の難民受入数や難民申請数を紹介しようと思ったのですが、ちょっと探しただけでは整備されたデータは見つかりません。もし見つけたら追加しようと思います。