子供の頃
ギリシア神話を読み、それから幾つか
ギリシア悲劇も読みました。各国の神話、伝説、昔話にも共通だと思いますが、ギリシア悲劇には「人間の宿命」が全て凝集されているように感じられます。成立から約2500年を経て今も新鮮なのです。
昨日書こうと思ったのですが、ギリシア悲劇について色々読んでいるうちに疲労困憊
ポンペイの壁画:
ペンテウスが八つ裂きにされる場面
ブルク劇場で、この作品が上演されています。日本語のタイトルは「バッカスの信女」ですが、他の言語のバッカエ、バッコイ、ドイツ語のバッケンなどは「
バッカスの信者」(複数形)です。
超簡略化すれば・・・
ディオニュソス(バッカス)が信者を引き連れて
テーバイにやってきたが、テーバイの王ペンテウスはディオニュソスを信仰しようとしなかった。このため彼は、彼の母親
アガウエーを先頭とする信者たちに八つ裂きにされる。アガウエーはライオンを仕留めたと思い、その首を持ってテーベに戻る。ディオニュソスの魔力による狂気から覚めたアガウエーは、手にしている首が息子のものと気付き悲嘆にくれる。・・・という物語。
ブルク劇場HPに紹介されている舞台の様子
以前にも書きましたが、古代ギリシア劇と能舞台には共通点があります。それは舞台装置を殆ど使わず、地謡(ギリシア劇の
コロス)の人々が場面や状況を説明することです。登場人物が面をつけることも共通点です。従って舞台装置を全く使わない演出は、ギリシア劇の流れを汲むものと言えます。
舞台には6つのベルトコンベアが並べられ、それがゆっくり回転し続けます。しかもベルトコンベアが斜めになったり回転したり・・・出演者は同じ場所に留まるためには常にコンベアと同じ速度で歩いていなければならず、かなりの重労働だなと思いました。
コロスの人たちは黒いバーミューダーパンツのようなものを着け上半身は裸(女性は胸当て着用)。
もちろん、ペンテウスが八つ裂きになるところもコロスによって描写されます。息子の首を持ったアガウエーも、右肩から右手の先まで黒く塗って象徴的に表現されています。
全ての登場人物が腰から鎖のようなものを下げ、もう一方の端がベルトコンベアのレールに固定されています。これはコンベアが常に動いていて前や後に傾斜したりするので事故防止のためか、あるいは皆がディオニュソスに操られているという視覚表現かなとも思いました。
ブルク劇場のプログラム表紙
単純に解釈すれば、ペンテウスはディオニュソス神を信じなかったので罰として八つ裂きにされた、ということになります。しかし演出家は現代における世論操作と、それに踊らされる群衆の危険性を重ね合わせています。
このためプログラムでは
エリアス・カネッティの「
群集と権力」も言及されています。
教訓:一番恐ろしいのは群集である