ブルク劇場で
ジョージ・タボりの「我が闘争(Mein Kampfマイン・カンプフ)」を見ました。
ヒトラーがウィーンの美術アカデミー入学試験に落第し、ホームレスのための施設で過ごした時期を、誇張した茶番劇として描いています。
タイトルは勿論、ヒトラーが後にプロパガンダのため出版した「
我が闘争」への皮肉なアリュージョンです。
このボログのカテゴリーが「おきにいり」なのは「タボリの茶番劇が凄い」という意味での「おきにいり」です。
この作品は旧東独でも出版されたらしく、下の写真はその表紙です。
ヒトラーがホームレス施設で、ユダヤ人と親しくしていたことは良く知られています。
この「意図的茶番劇」の主人公はショロモ・ヘルツルというユダヤ人で、「我が闘争」というタイトルの本を執筆中です。
(この名前も
テオドール・ヘルツルへのアリュージョン)
美術アカデミーの試験に落第し失意のヒトラーをヘルツルは親身に慰め、政治家への道を示唆。ちょっと無造作だった口ひげを後年の「ヒトラー髭」に剃り、執筆中の本のタイトルまでヒトラーに譲ります。その帰結は壊滅的で、「茶番劇」の最後には死神(女性)が表れて、ヒトラーに
親衛隊のユニフォームを着せ、更にハインリヒ・ヒムリッシュ(
ハインリヒ・ヒムラーのことで「ヒムリッシュ」は「天国のような」の意)という乱暴者が登場します。
ジョージ・タボリは父親始め多くの親族を
ホロコーストで失いました。
今回の上演を演出したのは
イスラエル出身の演出家で、この人の祖母は
アウシュヴィッツを生き延びた闘士で、演出家は祖母から多大の影響を受けたということです。
ブルク劇場HPの
「Mein Kampf」紹介では多くの舞台写真が見られます
タボリの「我が闘争」は、映画史上の名作「
チャップリンの独裁者」から40年以上を経て登場し、チャップリン同様、ヒトラーを徹底的に笑いものにしています。ほかにもヒトラーを喜劇的に扱った作品はありますが、チャップリンとタボリは際立った「過激派」と言えます。
今回の演出で面白かったのは、脇役として生きたニワトリが登場することです
他の演出では縫いぐるみを使う例もあるようですが、今回は正真正銘のニワトリさん。
しかもプログラムの出演者一覧に
ミッツィ(ニワトリ):(演者)ビルネ
と紹介されていたことです。このニワトリさんは、終盤に象徴的にガス室で殺されますが、その亡骸には縫いぐるみが使われていました。
上演があるたびにビルネさんがミッツィを演じているようです。
リハーサルから出演して慣れているのか、あるいは眠いのか、ココとも鳴かず落ち着いた立ち居振る舞いでした