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From 宇山卓栄
15~16世紀の大航海時代に、
ポルトガルとスペインは
華々しく世界へ進出しました。
しかし、
16世紀後半にポルトガルが、
17世紀初頭にスペインが、
それぞれ急速に衰退し、
オランダに覇権を奪われていきます。
オランダへの覇権交代が
どのように展開されたか
ということについて、
歴史の概説書は詳しく説明しています。
しかし、覇権交代が、
なぜ生じたのかという根本理由、
特に、ポルトガルとスペインが
衰退した理由について、
掘り下げて説明している
概説書はほとんどありません。
香辛料貿易で莫大な
利益を上げたポルトガル、
新大陸で大量の
金銀を獲得したスペイン、
成功していたはずの両国の
覇権が崩れていくことの原因を
根本的に解明することこそが
重要なのであり、
オランダが覇権を確立していく様子を
如何に描写したとしても、
歴史の表層を
追っていることにしかなりません。
ポルトガルやスペインという
西の辺境を、一躍、
時代の雄に押し上げたのは
ジェノヴァの資本です。
ジェノヴァの船乗りコロンブスは
ポルトガル王やスペイン王に、
ジェノヴァの融資を元手にした
新航路の開拓を薦めて廻り、
ジェノヴァの銀行の
セールスマンのような
役割をしていました。
ジェノヴァは
ポルトガルやスペインに
法外な高金利で
資金を拠出していました。
1500年、ポルトガル国王
マヌエル1世は公債の
「パドラン・デ・ジュロ」を
発行しますが、
香辛料貿易で得た利益のほとんどを、
その公債の利払いに
充てなければなりませんでした。
ポルトガル公債を
引き受けていたのは
ジェノヴァでした。
図のように、ジェノヴァは
公債などの引き受けを通じて、
ポルトガルやスペインから
高い利払いを受けます。
一方、資金の預かり元である
ヨーロッパ中の富裕層や投資家には、
低い利払いしか与えませんでした。
この利払いの差益が
ジェノヴァの利益でした。
差益スプレッドを
いかに拡大するかということが、
ジェノヴァ資本の大きな関心であり、
起債などの金融技術を
豊富に持つジェノヴァが、
金融技術に疎い新興の
ポルトガルやスペインを操り、
搾取していたと言っても
過言ではありません。
新航路開拓の情熱と狂奔の裏に、
冷悧なジェノヴァ資本の
計算が働いていたのです。
ポルトガルはインド経営の
本拠地をゴアに置きます。
インドからさらに、東へ進み、
マレー半島に進出し、
1511年、マラッカを占領します。
マラッカ海峡を押さえた
ポルトガルは、南シナ海、
東南アジア地域に進出し、
香辛料の主産地である
インドネシア西奥部の
モルッカ諸島を占領し、
これを香料諸島と名付け、
香辛料貿易を拡大していきます。
ケープ→モザンビーク→ホルムズ
→ディウ→ゴア→マラッカ→香料諸島
に到るポルトガルの港湾拠点の運営には
莫大な費用が投じられ、
小国ポルトガルの予算だけでは
その費用を負担できず、
ジェノヴァ資本に
依存しなければなりませんでした。
結果、香辛料貿易の利益の
ほとんどをジェノヴァに取られ、
ポルトガル王室は慢性的な
財政難に陥っていました。
また、香辛料貿易で香辛料の
輸入量を増やせば増やす程、
需給のバランスが崩れ、
香辛料価格は下落し、
ポルトガルの首は締まっていきました。
ポルトガルは身の丈に合わぬ
開発話に乗り、
負債とその利払いに追い立てられ、
疲弊していったのです。
今日でも、借金を減らすと称し、
さらに多額の借金をして、
事業拡大を続けていくという、
蟻地獄のような経営に陥っている
会社は多いものですが、
ポルトガル王室も
まさにそうした状況でした。
ポルトガルは16世紀後半から、
借金による「事業拡大」として、
北アフリカのモロッコの
征服に乗り出します。
ポルトガルはセウタ、
タンジールなどの
沿岸都市を攻略しますが、
1578年、モロッコを支配していた
イスラム王朝サアド朝に大敗します。
年間の国家収入の半分に
相当する額の戦費が投じられた
この戦いに負け、
ポルトガルは負債の返済の
目処が立たなくなり、
デフォルト(破綻)します。
そして、1581年、
隣国のスペインが
ポルトガルを併合します。
スペインも財政に
余裕があった訳ではありませんが、
ジェノヴァの巧みなファイナンスで、
スペインがポルトガルの
負債を引き継ぎます。
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