10月の消費者物価指数が前年同月比プラス3.6%となるなど、エネルギー価格や食品を中心に物価高で家計の負担感が増している。そんな中、家計の固定支出の代表格ともいえる住宅ローンの見直し機運が高まっている。

 住宅ローンを契約する際、気になるのが完済までの金利が一定の固定金利型と半年ごとに金利の見直しが行われる変動金利型、どちらを選択するかだ。インフレの進行が懸念される今、金利上昇が本格化する前に金利を固めておきたいと考えるのが普通かもしれないが、今夏以降、住宅ローン金利では「固定型は上がり、変動型は下がる」という奇妙な現象が起こっている。

 住宅ローン比較サイト「モゲチェック」を運営するMFS(東京・千代田)によると、35年固定型ローンの11月の金利は年1.54%。変動金利の平均値0.44%との差は1.10%と、この3年間で最も大きくなった。

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 金利差拡大の要因は2つだ。まずは、2つのローン金利の決まり方の違いが関係している。固定型の金利は長期金利におおむね連動する。世界的なインフレ傾向で日本の長期金利にも上昇圧力がかかり、固定金利は昨年以降、上昇基調だ。

 一方、変動型の金利は政策金利に連動する「短期プライムレート(短プラ)」と呼ばれる期間1年未満の貸出金利を参照する。日本銀行のマイナス金利政策が続く中では、約20年変わらない状況が続いている。

 次に、民間金融機関による競争で、変動型の金利が押し下げられている点が挙げられる。「より低い金利でローンを組みたい」というニーズの高まりが、金融機関の金利引き下げの動きを活発化させていると言える。

変動金利型では年0.2%台も

 仕掛けたのはauじぶん銀行だ。6月から金利引き下げキャンペーンを展開し、auの携帯電話契約などの条件を満たせば最低で0.2%台の変動金利を提示。新生銀行もキャンペーン金利で0.45%から0.35%に下げた。住信SBIネット銀行やPayPay銀行などネット銀行を中心に、競争に拍車がかかっている。

 「採算ぎりぎりの金利水準だが、契約件数を増やせば金利収入の落ち込みはカバーできるし、(金利とは別に借り手から徴収する)融資手数料も増える」。あるネット銀行の融資担当者はこう本音を明かす。

 住宅ローン利用者の約9割が変動金利型を選択するというデータもあるほど、圧倒的に変動型に対するニーズは根強い。それもそのはず、モゲチェックの試算によれば、11月中に3500万円を固定金利1.54%と変動金利0.44%で借りた場合(借入期間は35年)、毎月の返済額はそれぞれ10万7852円と8万9961円。1万7000円以上の差が発生する。足元の返済額だけを見れば、変動金利型を選ばない方がおかしいと言ってよいだろう。

 変動型ローンに対する根強いニーズは、固定型ローンの金利にも影響を及ぼし始めている。独立行政法人の住宅金融支援機構が、長期固定金利型住宅ローン「フラット35」の10月の貸出金利(最低金利)を1.48%と、前月より0.04%下げたのだ。調達金利が上昇していたにもかかわらずだ。

調達金利の上昇を反映せず

 同機構は住宅ローン債権を担保に債券を発行し、フラット35の貸し出し原資を調達する。その10月の調達金利は0.58%と前月比プラス0.08%だった。「適用金利は調達金利と運営費などを勘案して決める」(同機構)という原則が破られたように見える。

 調達金利上昇分を貸出金利に上乗せしなかったのは「変動金利との金利差を意識したとみられる」(メガバンク関係者)。同様の傾向は11月も続いた。11月の調達金利は前月比0.16%上昇したが、貸出金利はプラス0.06%の1.54%にとどまった。