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九州の温泉の大きな特徴として、家族風呂(個室の貸切風呂)を備えた施設が多いことが挙げられます。もちろん他地域にも家族風呂などを称する貸切風呂はありますが、絶対数や利用単価などを考えますと九州は他地域を圧倒しており、いかに九州の文化と温泉が密接であるかを実感させてくれ、関東人の私にとっては至極羨ましい限りです。余談ですが、某○○都では条例により、例え家族であっても異性で貸切風呂を使用することは許されないんだとか。でも温泉と同じく保健所が管轄する都内のエッチな泡の国は、必ず男女がペアになることを前提にして営業しているわけで、何を以て良し悪しの線引をしているのか、オツムの弱い私にはさっぱり理解ができません。
さて九州に余多ある家族風呂の温泉施設の中でも、今回は熊本を紹介するガイドブックなら必ず載っているであろう、はげの湯温泉の「くぬぎ湯」を利用することにしました。自嘲を含めて失礼を承知で申し上げるならば、天邪鬼な思考に陶酔する温泉ファンの多くはメジャーで観光色の強い温泉施設を敬遠する傾向にありますが、そんな人間の一人である私だって、たまにはミーハーな気分になるときもあり、前回取り上げた「白地商店」の露天風呂に浸かった後、たまたまその近所に「くぬぎ湯」があったため、これを機に是非有名どころを抑えておきたくなったので、今回訪問した次第であります。
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お風呂の全てが貸切の個室風呂という、九州独特の営業スタイルです。なぜこの手の施設が、九州にも負けないほど豊富な温泉資源を有する東北・北海道(というか東日本全般)で僅少なのかが不思議でなりません。そんな愚痴はさておき、受付で利用人数(私の場合は一人)を告げますと、頭数に合った個室の札を手渡してくれます。
その受付ではお芋が売られていました。小国エリアの温泉をご存知の方なら、この芋をどうするかは言わずもがなですよね。
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野菜洗い場で野菜の泥を落とし、地熱を活かした地獄蒸し器で蒸すわけです。もちろん、いろんな食材を蒸すことができ、この時も旅のご夫婦がタマゴやらイモやらを釜に入れて楽しんでいらっしゃいました。タマゴは数分で十分加熱されるのですが、イモなど厚みのあるものは数十分を要するため、まず釜に素材を入れてから入浴し、湯上りに取り出すとちょうど良い具合に蒸し上がるんだそうです。
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涌蓋山の湧水。キリリと冷えており、湯上りにゴクリと飲めんだら、全身に清涼感が冴え渡りました。
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左右に並ぶ個室風呂群は、同じ熊本県の黒川温泉チックな装いです、もはやこの手のデザインは、日本温泉界では一般的になりましたね。ちょっと食傷気味でもありますが…。
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今回利用するのは、この施設でも最も小さなタイプのお風呂です。ログハウスのようなウッディーな脱衣室は、よく手入れがされておりとっても綺麗。衛生面に神経質なお客さんでも問題なく使えるでしょう。壁にコインタイマーが設置されていますね。これについては後述します。
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浴室には赤い石板貼りで2~3人サイズの湯船が据えられており、入室時は空っぽです。この大きさだったら、小さな子連れのファミリーなら全員同時に湯船へ入れちゃうかも。
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窓の外は山の緑。快いそよ風が吹き込んできます。
外部からの視線は特に気になりませんから、虫が気にならない季節でしたら、窓を全開にして入浴すると、露天風呂気分が味わえるかと思います。実際私はそのようにして利用しました。
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さて湯船にお湯を張らなきゃいけませんから、コインタイマーにお金を投入します。投入したコインが規定の金額に達すると、タイマーに30という数字が表示されました。つまりこれが残り時間(分)なわけです。残り時間と言っても、温泉を出すタイマーの時間であり、個室の利用時間とは異なります(個室利用時間は50分です)。
「この手の装置、どこかで見たことあるな」と自分の記憶を辿っていったら、日本ではなく台湾の「北投温泉公共浴室」で使われていたことを思い出しました。九州と台湾は双方とも個室風呂が多く、文化的に意外な相似があるのかもしれませんね。
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コインタイマーに残り時間が表示されるとともに、建物の裏手からガタンという大きな作動音が響き、まるで用水路から田んぼに水を引いているかのようなとんでもない勢いで、ドバドバーーーーっと湯口からお湯が吐出され、わずか5分で湯船は温泉で満たされました。
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満杯になっても怒涛の如きお湯の吐出は止まらず、もったいないほど大量にオーバーフローして排水口へと流れ去って行きます。吝嗇な生活をしている私は、大量に捨てられゆくお湯を見て罪悪感にかられてしまったのですが、でもそんな心配は御無用、この数分後には適度に掛け流される程度の投入量へと吐出圧力が弱まりました。自動的に調整される設定になっているのですね。
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室内にはシャワーが1基設置されているのですが、これもタイマーと連動しているため、30分以内に使わないとお湯が止まってしまいます。腰掛けや桶は2つずつ用意されていましたので、このお風呂は2人で利用することを想定しているわけです。はぁ…。一人で入るオイラの虚しさったら、ありゃしない…。
さてお湯に関してですが、無色澄明で大雑把に表現すれば無味無臭ですが、よく感覚を研ぎ澄ますと、味覚としては微収斂、臭覚としてはカーボンのような何かが焦げたような匂いが感じられました。とはいえ窓を開けたときに入り込んでくる、周囲の外気に漂う硫黄臭の方が余程強く、お湯の匂いはそれらに完全に打ち消されてしまうほど心細いものでありました。この地域に多い典型的な造成泉かと思われますが、造成泉ゆえのマイルドなお湯は敏感肌の方でも硫黄臭が苦手な方でも安心して入浴できるでしょうから、一般の観光客にとっては寧ろのこうした癖のないお湯の方が良いかもしれません。しかも利用の都度お湯を張り替えますから、お湯の鮮度や衛生面でも安心できますね。目の前でドバドバ投入される新鮮なお湯に浸かれるのですから、普段はお湯に小五月蝿い私も、ついつい興奮して大喜びしてしまいました。
なお利用後はお湯を抜き、備え付けのデッキブラシでお風呂を清掃してから退室します。
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湯上りに受付でお塩と一緒に温泉卵を2ついただきました。もちろんここの蒸し釜で茹でたタマゴです。黄身がトロトロでおいしかった!
単純温泉 41.1℃ pH6.78 溶存物質117.4mg/kg 成分総計117.8mg/kg
Na+:10.1mg(41.9mval%), Mg++:2.4mg(18.10mval%), Ca++:7.1mg(33.33mval%),
Cl-:6.2mg(16.04mva%), HS-:0.2mg(0.94mval%), HCO3-:45.9mg(70.7mval%),
H2SiO3:35.1mg, H2S:0.4mg,
熊本県阿蘇郡小国町西里2978
0967-46-3222
24時間営業
内湯800円から・露天1200円から
共用洗面台にドライヤーあり
私の好み:★★