温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

秩父 新木鉱泉

2013年07月23日 | 東京都・埼玉県・千葉県
地獄釜の中で茹でられているかのような猛暑続きの毎日、皆様いかがお過ごしでしょうか。こんなクソ暑いのに熱い風呂なんか見たくもねぇ、という声も聞こえてきそうですので、今回は冷たくて爽快な冷鉱泉の源泉にそのまま入ることができる埼玉県秩父の鉱泉宿「新木鉱泉旅館」を取り上げてみます。こちらのお宿はいろんな方面で紹介されており、鉱泉としての質も良いので、既にご存じの方も多いかと存じます。私個人としては6年ぶりの再訪でして、前回も今回も立ち寄り入浴利用です。



西武秩父駅前より皆野行か定峰方面行の路線バスに乗車。


 
「金昌寺」バス停で下車し、県道を若干戻ると旅館の赤い看板が立っていますので、それが指し示す路地へと入って行きます。霊場巡りの土地らしく、路傍にはいくつものお地蔵さんが佇んでいました。路地に入ってしばらく進むと二又に分かれたところで再び赤い看板が立っていますから、そこを右折して2~3分歩けば現地に到着です。



鉱泉宿といえば、温泉ファンの中にはつげ義春の作品に出てくるような、鄙びたおどろおどろしい陋屋を連想してしまう方もいらっしゃるかもしれませんが(私はその一人)、さすが東京という大マーケットの近郊にある観光地の人気宿だけあって、まるで熊本県の黒川温泉郷を彷彿とさせるようなテイストの綺麗で小洒落た外観となっており、女性客の受けはとても良いのではないかと思われます。


 
古い建物を丁寧にメンテナンスしながら使い続けている館内からは、老舗らしい重厚感と大人の雰囲気が感じられます。綺麗に掃き清められた玄関まわりも民芸調の趣きです。入浴をお願いしますとスタッフの女性が丁寧に接客してくださり、私が差し出した1000円札をちゃんと両手でしっかりと受け取っていました。下足場でスリッパに履き替え、上がり框からすぐ右の廊下へと進みます。



館内表示に従って、離れの湯屋へ。


 
湯屋の自動ドアが開くと同時に、右奥から「いらっしゃいませ」という若い女性の声が聞こえて来ました。入って右側のスペースはマッサージルームになっていて、専属のスタッフさんが常駐しているんですね。飾りの太鼓橋を渡って浴室へ向かいます。


 
脱衣室は鰻の寝床のように細長くてやや狭く、混雑時にはちょっとストレス感をおぼえるかもしれませんが、室内は清潔できちんと整頓されており、室内の利用客が1~2人程度でしたら、問題なく快適に使えるかと思います。棚に用意されている籠がカラフルですね。洗面台は最近の和風旅館や料亭などでよく見られる陶器製です。アメニティ類も一通り揃っています。


  
大きな窓から外光が降り注ぐ浴室は、木材や石材を上手い具合に組み合わせることによってとても落ち着いた上品な雰囲気が醸し出されています。床に敷かれているのは伊豆青石かそれと同種の(凝灰岩系の)石材かと思われます。洗い場は浴室の左右に分かれており、計8基(左右4基ずつ)のシャワー付き混合水栓が菱形のミラーと共に設置されています。また浴室入口の右手にはサウナも設けられています。


 
四角くて縁に木材が用いられている主浴槽は、足を伸ばせば5~6人、膝を曲げれば8人前後は入れそうな容量です。小さな祠のような湯口から循環のお湯が投入されており、その脇に立てかけられている札には「お地蔵様のお告げにより突然源泉が湧き出ました。その水で顔を洗うと美しくなると言われています」と書かれており、実際に私もお湯で顔を洗ってみましたが、元々不細工なので、懸命に洗顔したあとに鏡に写った自分の顔をマジマジと見つめてみても、目立った変化は見られなかったのが悲しいところ…。槽内では3本のジェットバスが稼働しており、これがちょっと騒々しいのですが、ジェットバスが好きなお客さんもかなりいらっしゃいますから、常時稼動は致し方ないところですね。

お湯は無色澄明でほぼ無味無臭。冷鉱泉ですから浴用に適するようしっかり加温されており、湧出量も限られていますから循環消毒も行われていて、浴槽からのオーバーフローは見られません。消毒の薬品臭はほとんど気になりませんでしたが、そもそも源泉が有していたはずのイオウ感はすっかり消えています。でもアルカリ性に傾く重曹泉らしいヌルツルスベの浴感がはっきりと肌に伝わり、このお湯が単なる真湯ではなく、ちゃんとした鉱泉であることは明白であり、いわゆる美人の湯と称されるような典型的な鉱泉であります。尤も、上述した私のような悲しい実例もありますから、かつてのフジカラーのCMのコピーの如く「美しい人はより美しく、そうでない方はそれなりに」というつもりで臨んだほうがよさそうですね。


 

新木鉱泉で特筆すべきは、浴室入って左側に据えられているこの源泉樽風呂でしょうね。今回の記事において、いままでの長ったらしい記述は序章に過ぎません。今回私はこの樽風呂を目当てにわざわざここまでやって来たようなものです。そもそもはサウナ利用客用の水風呂代わりとして用意されたようですが、この樽風呂はこちらの鉱泉宿ご自慢の源泉が完全掛け流し状態で投入されているので、サウナの利用とは関係なく、鉱泉のありのままの状態を味わうことができるわけです。温泉資源に恵まれていない秩父で湧出するのはほとんどが冷鉱泉であり、しかもその源泉も湧出量が限られているため、源泉へ直接入ることができる浴槽を備えている施設は稀有であり、この樽風呂はとても貴重な存在です(蛇口を捻れば源泉のままの冷鉱泉が出てくる施設なら、それなりにありますけどね)。

一人サイズの丸い樽に竹の筒からトポトポと冷鉱泉が注がれており、静々とオーバーフローしています。樽の中の鉱泉水は青みがかった灰白色に僅かに濁っており、半透明の浮遊物(湯の花)がゆらゆらしていて、樽の中に体を沈めるとザバーっと勢い良く鉱泉が溢れ出るとともに、底の沈殿が一気に舞い上がります。樽の中で肌を擦ると、はじめはヌルっとした感触が表面を滑り、その後に重曹由来と思しきツルスベ浴感が全身を優しく包み込んでくれました。主浴槽や後述する露天風呂もこの樽風呂と同じ源泉を用いており、ツルスベの心地良い浴感を楽しめるのですが、やっぱり樽風呂の生源泉とは比べ物になりません。特に暑い時期は感触のみならず、その冷たさが実に爽快ですので、本当に病みつきになります。

でも今回ちょっと気になることがあったのです。湯口にはコップが置かれているので、生源泉を飲んでみたのですが、前回利用した時には感激するほど明瞭だったタマゴ的な味や匂いが、この日はあまり感じられず、その代わりに甘み+アルカリ性単純泉的な微収斂+軟式テニスボール的イオウ感(劣化したイオウ感)がほんのり感じられるにとどまりました。分析表によれば硫化水素イオンを6.1mgも含んでおり、正真正銘の立派な硫黄泉であることは間違いないのですが、どうやら新木鉱泉のイオウは日によってコンディションに大きなバラつきがあるようでして、たまたま私は鉱泉のご機嫌が斜めなタイミングで利用してしまったようです。でも他の温泉ブロガーさんの記事を拝見しますと、秩父のたまご水と呼ばれるような他の鉱泉宿のお風呂でも、以前と比べてタマゴ感が弱まっているという報告が散見されますので、もしかしたら秩父全域で鉱泉に何かの変化が起きているのかもしれませんね(あくまで勝手な推測ですが)。


 
露天風呂は大小2つの浴槽があり、大和塀の隙間からは秩父の牧歌的な田園風景が眺められます。決して広くない空間ながら、ブレのないデザインコンセプトを貫いているためか、利用していても視覚的な違和感が無く、長閑で且つ品も良い雰囲気の中、時間を忘れてのんびり過ごすことができました。
大きな浴槽は2~3人サイズで、縁には木枠が、底には伊豆青石がそれぞれ用いられており、頭上は屋根で覆われています。一方、小さな浴槽は一人サイズの赤い焼き物で、大小それぞれ内湯同様に加温循環のお湯が張られています。外気による冷却のためか、内湯よりは若干ぬるくて、長湯できるような湯加減でした。



参考までに、上の画像は私が2007年7月に訪問した際に浴室から撮影した露天風呂の様子です。当時は現在と異なる形状をしており、大小の木の浴槽が据えられていたんですね。

宿泊予約サイトでの口コミ評価も高いこちらのお宿。樽風呂の冷鉱泉はタイミングによってコンディションが異なるようですが、掛け流し状態の冷たい硫黄泉に入ったときの爽快感は格別ですので、茹だる暑さに辟易したら是非一浴なさってみてはいかがでしょうか。


単純硫黄冷鉱泉 14.8℃ pH9.4、8.5L/min(自然湧出) 溶存物質0.599g/kg 成分総計0.599g/kg
Na+:156.1mg(94.83mval%),
Cl-:17.1mg(6.71mval%), HS-:6.1mg(2.52mval%), SO4--:56.5mg(16.50mval%), HCO3-:295.6mg(67.69mval%),
H2SiO3:45.5mg,
(掛け流しは樽の水風呂のみ。主浴槽と露天は加温循環消毒あり)

西武秩父駅(西武秩父線)・秩父駅(秩父鉄道)より西武バスの皆野駅行もしくは定峰方面行に乗車し「金昌寺」バス停下車、徒歩5分
埼玉県秩父市山田1538  地図
0494-23-2641
ホームページ

立ち寄り入浴12:00~21:00
平日800円・土日祝900円(貸切風呂あり・3150円/60分)
ロッカー(100円有料)・シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★
コメント (2)
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