文化逍遥。

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わたしのレコード棚―ブルース7、Leroy Carr

2011年05月07日 | わたしのレコード棚
 前回「わたしのレコード棚―ブルース6」で紹介したギターリストのスクラッパー・ブラックウェルと活動したピアニストのリロイ・カー(Leroy Carr)は、1905年3月27日にテネシー州ナッシュビルに生まれ、1935年4月29日にインディアナポリスで30歳の若さで亡くなっている。’28年から’35年の死に至る7年という短い間に162曲の録音をしたといわれている。ブルースピアニストは数多いが、この人のピアノとヴォーカルは他のブルースマンにはない繊細さと流麗さがあり、伴奏にまわったブラックウェルの単弦でチョーキングを多用したギターとの絡みはこのコンビならではのものだった。正直言って、いつ聴いても感動する。さらに、ピアノとアコースティックギターでは音量がかなり違うのに、バランスが取れた録音をしていることにも感心させられる。


 もっとも初期、’28年の録音15曲を収録したMATCH BOX(UK)のLP。「How Long - How Long Blues」は、’28年6月のインディアナポリスでのテイクの他に同年12月シカゴでの2テイクを含み、合計3テイクを収録している。


 こちらのLPは、Yazoo1036。’29年から’34年までの録音が編集されている。ブルースばかりでなく、ジャズやポップな感じの曲、サーカスなどのショウの合間に演奏されたのではないかと思われる曲も含まれており、カーの作詞・作曲・演奏能力の高さを感じさせる名盤。’34年の録音では、ジョッシュ・ホワイト(Josh White,c1908~1969)がギターを弾いている曲もある。


 デンマークのレコード会社から出たLP。’34年の録音を集めたもの。「Blues Before Sunrise」が聴ける。


 オーストリアのDOCUMENTレーベルのCD5137。1932年から34年に録音された23曲を収録。「Complete Recorded Works In Chronological Order」となっている。カーが残した全録音を年代順にまとめたものということになり、これが第4巻(VOL.4)。


 同じく5139。1934年から、無くなる2ヶ月前の1935年2月25日シカゴでの録音まで、21曲を収録。このVOL.6で、このシリーズ最後だろう。わたしの手元にあるのは上のVOL.4と、このVOL.6の2枚。


 ’95年にP-VINEから出た、’28年から’32年までの16曲を収めたCD。このCDは、『ブルース&ソウル・レコーズ』という雑誌の7号でCDリヴューをわたしが担当させてもらったので、その時にP-VINEから支給されたもの。なんといっても最初の録音「How Long - How Long Blues」(1928、インディアナポリス)が聴けるのがいい。この8小節のブルースを最初に聴いた時には、セブンスがこんなにも曲全体に効果を及ぼすものかと感動したものだった。単純な曲で聴かせられるのは、ミュージシャンにほんとうの表現力があるからなのだ。

 カーは、大酒飲みだったといわれる。彼の生きたのは、禁酒法(’19~’33)の時代だ。隠れて作られた悪質な酒を大量に飲み命を縮めたのだろう。ブラックウェルもカーと出会う前はムーンシャイナー(夜陰にまぎれ月明かりで密造酒作りに関わる人)で、やはり大酒飲みだったらしい。ブラックウェルは、ひっとしたら酒の上のトラブルで撃たれたのかもしれない。酒飲みは、皆一様に「自分は大丈夫」と言う。が、その時にはすでに酒で判断力を失っていると思った方がいい。

2022/4加筆・改訂

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