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わたしのレコード棚―ブルース9、Willie Brown 

2011年05月14日 | わたしのレコード棚
 ウィリー・ブラウンの生年も資料によってまちまちで、1890年~1895年としているのもや1900年としているものなど、かなりな開きがある。生まれた場所は、ミシッシッピー州クラークスデイル(Clarksdale)のようである。1941年にアラン・ローマックスがミシッシッピーで議会図書館のためのフィールド録音をした後、一時期サン・ハウスとともにニューヨーク州のロチェスターに移ったらしい。さらに、その後ミシッシッピーに帰り1952年頃に亡くなっている。なお、1942年にアーカンソーで「Mississippi Blues」や「Ragged And Dirty」などを議会録音したウィリー・ブラウンとは別人というのが今は定説になっている。


 このLPはヨーロッパのROOTSというレーベルから出たRSE-5。ジャケットの写真はサン・ハウス。ブラウンの写真は、残念なことに残っていないようだ。ブラウンのヴォーカルとギターでの単独録音は、1930年北部のウィスコンシン州グラフトンでの「M and O Blues」と「Future Blues」、そして1941年ミシッシッピーで議会図書館のための「Make Me A Pallet On The Floor」の3曲を収録。さらに、1941年の議会録音でギターのみを担当した2曲も収録している。
 上のLPには入っていないが、ブラウンの録音として残っているものでは、チャーリー・パットンの1930年5月のグラフトンのセッションでセカンド・ギター3曲を、さらに1941年ローマックスの議会録音の中の「Camp Hollers」でサン・ハウスなどとコメントが入っているものがある。わたしのところに有る資料はこれですべてで、ブラウンの残した録音もこれだけと考えられている。彼のようなすぐれたミュージシャンの録音がこれだけなのはあまりに惜しい。悔しささえ感じる。特に、'30年のグラフトンでの2曲はブルースのみならずジャンルを超えた「歴史的録音」と言っても良く、他の追随を許さない。その表現するものは、時の流れの複雑さ、と言えようか。人は感情的な生き物なので、喜怒哀楽、それぞれに感じる時間が複雑に入り混じっている。汽車の音、歩み、心拍、風、そして言霊(ことだま)。「すばらしい」としか言いようがない。


 ARHOOLIEからのFOLKLYRICレーベルLP9008。Ⅰ941-1942年のサン・ハウスが議会図書館のために録音した14曲を収録。この中で、ウィリー・ブラウンの声が入った「Camp Hollers」が聴ける。これは歌というよりも、昔の作業場にあったキャンプ(これは作業宿泊所で日本風に言えば「飯場」のようなところ)で夜な夜な酒を酌み交わしながら気持ちを吐露した「叫び」に近いものだろう。ブルースの歴史を知る上では、これも貴重な録音と言える。

 「M and O Blues」と「Future Blues」の2曲はブルース・ギターの教則本によくのるが、ブラウンのヴォーカル・ギターでなく「先生」の模範的な演奏だと、ダシの入っていない味噌汁みたいなもんで味気なく間が抜ける。P-VINEから出ているCD『伝説のデルタ・ブルース・セッション1930 』(PCD-24211)で聴くことが出来るので、ぜひ、オリジナルをじっくり聴きたいものである。


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