文化逍遥。

良質な文化の紹介。

岡崎伸郎著『星降る震災の夜に』2012批評社

2015年03月08日 | 本と雑誌
 東日本大震災からまもなく4年の歳月が過ぎようとしている。

その間、「絆」とか「花は咲く」とかいうやたらと耳当たりの良い言葉が飛び交ったが、あれだけの災害の中で大きな喪失体験をした人にそんな言葉が届くのか、と疑問に思っていた。実際、「絆」という言葉に強い拒否反応を起こした人も多いと最近は報告されている。
また、仮設住宅などで暮らす人たち、特に子どもたちには負担が大きく時間が経つにつれ精神的に不安定になる子も多いという。

 そんな中で、図書館で『星降る震災の夜に‐ある精神科医の震災日記と断層』という本にであった。著者は、仙台生まれの精神科医で、長年、東北地方の精神科医療に尽くしてきた人だ。
2012年の発行なのですでに2年が過ぎているが、救命とか復興という表舞台ではなく、見えないところで働いてきた人たちの言葉がここにある。復興活動の中で、生き残った人たちのケアをする人だけでなく亡くなった人たちの死因を判別し死亡診断書を書く医師や、歯形を照合する歯科医など、見えないところで献身的に働く人達がたくさんいたのだ。さらに、その裏方達のケアをする精神科医の存在も忘れてはならない。この本は、そんな精神科医の綴った「日記と断層」だ。本文中に、被災者の中には時間と共に心の問題が大きくなる人も多いということも語られている。

 大変なのはこれからなのだ。
失われた地域のつながりと安定した住環境を再構築してゆく中で、喪失した心の一部を埋める作業をどう進めるのか、社会全体で取り組むべき問題だ。最後に、本文から印象的だった言葉を引用しておきたい。

「破綻した経験のある人は、そうでない人よりも、人生の奥深さを知るきっかけを手に入れる。」p106

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