文化逍遥。

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『心』小泉八雲著平川祐弘訳2016年河出書房新社刊

2016年07月25日 | 本と雑誌
 「1895年9月15日 神戸にて」小泉八雲が英語で著した『心―日本の内面生活がこだまする暗示的諸編』の個人完訳が今年の5/30河出書房新社より刊行された。それを図書館で見つけたので借りてきて、わたしの蔵書の中にある平井呈一訳と少し読み比べてみた。かなり詳細な註が付いており、当時の社会状況や世相が理解しやすく、また英語の原義にかなり気を使って約されている、と感じた。

 さて、冒頭の「心」に対する八雲自身の説明文の中で「心―kokoro(heart)」の内面性として意味するところを次のようにまとめている。
『この言葉は、「心情」heartだけでなく情緒的な意味における「心意」mindをも意味し、「精神」spirit、「勇気」courage、「決心」resolve、「感情」sentiment、「情愛」affectionをも意味する。そして「内なる意味」inner meaningをも意味する。』
 これは、極めて大切な指摘だ。逆に考えれば、「心」と訳される時、原語ではかなり限定された意味を持つものなのに、あいまいにされてしまう可能性がある。特に、宗教性の強い「spirit」と科学的思考の対象となる「mind」は混同されやすく、時には故意にいっしょくたにしているのではないか、と思われるような翻訳もある。

 「心のありかた」の変遷と欧米文化との比較を考える上で、今読んでも大変有用な著作と感じる。
 

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