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坂口尚著『石の花1~5』講談社漫画文庫

2018年08月24日 | 本と雑誌
 坂口尚(ひさし)は、1946年東京まれ。1963年に手塚治虫の「虫プロ」に入社。その時16~17歳で、まだ定時制高校に在籍していたが、その後仕事との両立が出来なくなり学校はやめたという。作画およびストーリーの構成力は抜群で、この人の作品を読むと、自分が大学の文学部を卒業していることが恥ずかしくなる。1995年、急性心不全により49歳で亡くなったのが惜しまれる。



 『石の花』は、1941年に旧ユーゴスラビアがナチスドイツやイタリアなどに分割統治されてから、チトー率いるパルチザンによって解放されるまでを描いたコミック作品で、初出は1986年『月刊コミックトム』(潮出版社)。5つの民族、4つの言語、3つの宗教、2つの文字を持つといわれる複雑な国家だったユーゴスラビア。それが1990年以降の内戦を経て、今は分離独立。しかし、内部には依然紛争の種が燻り続けている。ヨーロッパ、特に東ヨーロッパから中東の地理や宗教のことはなかなか理解しにくい。たとえば、カトリックと東方正教会の教義が具体的にどのように異なるのか、なぜその違いが市民戦争にまで行きつくのか。おそらく、対立する利害関係がそこにはあるのだろう。この作品を読み直すのは、今回が3回目くらいだ。読むたびに勉強になる。

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