まず、ジャグ(Jug)という楽器についての説明から。ジャグとは、上の写真の下側に写っているような大きめのビンなどを口元でブッブッと吹いて低音を出すもので、うまい人が演奏するとチューバのような感じで音階が出せる。元々は、楽器を買うだけのお金の無い黒人たちが生み出した工夫だろう。その意味では、桶を使ったベースと共通点があるかもしれない。その後には、主にメンフィスあたりで、次第にヴォードビルに近い、聞く人あるいは見る人を楽しませる要素が強くなっていったようだ。ハーモニカのハミー・ニクソンなども、時にビンを使ったジャグを演奏していた。
ジャブ・ジョーンズ(Jab Jones)は、メンフィス・ジャグバンドなどで活躍したジャグの演奏家で、私の知る限りもっとも優れたジャグ・プレーヤーだ。音程も、リズムも安定していて、目立たないが、バンドの基礎を支える重要な役割を担っている。残念なことに、生没年など詳しい事はわかっていない。1928年にはウィル・シェイドらと共に録音しているので、そこから推測すると1900年頃に生まれた人だったかもしれない。
オーストリアのレーベルRSTのCDで、編集はジョニー・パース。1932年8月のリッチモンド録音では「Picaninny Jug Band」という名前で5曲、1934年11月シカゴ録音では「Memphis Jug Band」で16曲を収録。そのほとんどで、ジャブ・ジョーンズがジャグを吹いている。このCDのジャケット写真がメンフィスジャグバンドのものかどうか、正確なところはわからない。したがって、それぞれの楽器を担当しているのが誰かか断定は出来ないのが残念だが、メンフィスジャグバンドの写真だとするとジャグを演奏しているのはジャブ・ジョーンズの可能性が高い。メンフィス・ジャグバンドに関しては、すでに別のページで書いてあるので、そちらも参照していただきたい。
ROOTSレーベルのLP、RL-337。1927~1934年の18曲を収録。メンフィスジャグバンドは、ウィル・シェイド(Will Shade、vo&g)を中心に他のメンバーはかなり入れ替わっている。このLPでジャグを演奏しているのは、1927年のシカゴ録音でチャーリー・ポーク(Charlie Polk)、1930年メンフィス録音ではハンボーン・ルイス(Hambone Lewis)、他はジャブ・ジョーンズとなっている。ジャケットの写真は見にくいが、向かって左から2人目はウィル・シェイドで間違いないだろう。その右に大きなビンの様なものを持った人が写っているので、ジャグの演奏者には間違いないが、上にあげた3人のうちの誰かは断定できない。右端でギターを抱えている人は、ウィル・ウェルダン(Will Weldon)の可能性が高い。メンフィス・サウンドとも云うべきご機嫌な演奏を聴ける名盤。