長年にわたりブランディング・マーケターとして稼働してきた著者が、大企業の広告戦略の手法について紹介した本。
無防備な子どもに商品を無償提供したりさらには胎児に(母親を通じて)音や匂いや味覚になじませブランドを刷り込み両親や子ども自身を顧客として獲得していく手法、病気や老いや経済的不安を殊更に煽って身を守るための商品を購入させる手法、つながっていないことの不安(携帯)やオフでくつろいでいるときのメッセージの刷り込みや渇望に訴えかける音などの信号を駆使したり脂肪やグルタミン酸ナトリウムなどの中毒性の物質などを用いてブランド中毒を生じさせていく手法、セックスを暗示する広告の有効性、周囲と同じ物を欲しがる「ピアプレッシャー」を活用する手法、ノスタルジーを利用する手法、ロイヤルファミリーやセレブの有効性、健康幻想・強迫観念を利用する手法、個人データを集約して分析し最適に個別化された勧誘を行う手法などが順次紹介されています。
豚インフルエンザもSARSも除菌ソープや除菌ジェルで感染を予防できないのに、手洗いソープはほとんどどんな場所にも置かれるようになった(46~48ページ)。犯罪被害の恐怖を煽るCMで実際には犯罪が減少していたのに売上を急上昇させた住宅用警報装置会社(56ページ)や新米ママの罪悪感を煽って売上を伸ばす赤ちゃん用品メーカーや食品会社(59~62ページ)、これまで病気と考えられていなかったものも病気として不安を煽る製薬会社(62~65ページ)。ルイ・ヴィトンは日本ではフランスへの憧れをくすぐって徹底的にフランスらしさを演出して成功した。ルイ・ヴィトンの売上の中でフランスの消費者が占める割合はごく小さく(フランスのエリートはブランドを避けたがる)、ルイ・ヴィトンの製品の多くはインドで生産されているが日本向けのカバン類はフランスのイメージを保つためにフランス国内で生産されている(172~173ページ)。アップルのiTunesの使用許諾契約書には、iPhone、iBookの現在地を常時アップルが把握すること、アップルがその情報を第三者を分け合うことが記載されている(308~309ページ)。といったような、様々なメーカーの手口が紹介されているのが、とても興味深いところです。
大企業の手口の他にも、興味深い話が多々あります。ジャンクフードの中毒性について、高脂肪、高カロリー食品はコカインやヘロインと似た影響を脳に及ぼし、ラットへでの実験ではコカインやヘロインによるドーパミン受容体減少は2日で正常に復帰したのに対し肥満体ラットのドーパミン受容体が元に戻るには2週間かかった、つまりジャンクフードの中毒作用はコカインより長く持続する(92~93ページ)という恐ろしい話が紹介されています。全米の男性の15%は陰毛を剃っておりこれが流行し始めている(135ページ)とか。服を実際のサイズよりも小さめに表示して自分が細いサイズにフィットしたと思い込ませる「うぬぼれサイズ」の策略が女性服には何年も前から使われてきたが、これが男性服にも用いられてきている(137~138ページ)。大多数の人が20歳までに聴いた音楽を生涯愛し続け35歳を過ぎると新しいスタイルのポップミュージックが流行っても95%の人は聞こうとせず、新しい体験に対して開かれた窓は23歳で閉じ、初めての料理を受け入れる開放性は39歳で完全に閉じる人が多い(183ページ)。う~ん、確かに私は25歳くらいまでの歌しか覚えてない気がする。エコなどの社会的責任をうたう商品を購入する人は、たとえばオーガニックのハンバーガーを食べた後コークの空き缶を分別せずに捨てたり、他の面で無責任の行動を取りがちだとか(258~259ページ)。こういうの、気をつけないと…。私たちの脳は誰かにいい情報を教わりそれを別の人に教えるとき快感物質であるドーパミンが分泌される(329~330ページ)。人間は口コミが好きな動物ということですね。
実験結果とかは実験条件などがほとんど書かれていないので信用性を吟味する必要がありそうですが、様々な点で興味深い情報が満載で、とても勉強になる本でした。
原題:Brandwashed
マーティン・リンストローム 訳:木村博江
文藝春秋 2012年11月10日発行 (原書は2011年)
無防備な子どもに商品を無償提供したりさらには胎児に(母親を通じて)音や匂いや味覚になじませブランドを刷り込み両親や子ども自身を顧客として獲得していく手法、病気や老いや経済的不安を殊更に煽って身を守るための商品を購入させる手法、つながっていないことの不安(携帯)やオフでくつろいでいるときのメッセージの刷り込みや渇望に訴えかける音などの信号を駆使したり脂肪やグルタミン酸ナトリウムなどの中毒性の物質などを用いてブランド中毒を生じさせていく手法、セックスを暗示する広告の有効性、周囲と同じ物を欲しがる「ピアプレッシャー」を活用する手法、ノスタルジーを利用する手法、ロイヤルファミリーやセレブの有効性、健康幻想・強迫観念を利用する手法、個人データを集約して分析し最適に個別化された勧誘を行う手法などが順次紹介されています。
豚インフルエンザもSARSも除菌ソープや除菌ジェルで感染を予防できないのに、手洗いソープはほとんどどんな場所にも置かれるようになった(46~48ページ)。犯罪被害の恐怖を煽るCMで実際には犯罪が減少していたのに売上を急上昇させた住宅用警報装置会社(56ページ)や新米ママの罪悪感を煽って売上を伸ばす赤ちゃん用品メーカーや食品会社(59~62ページ)、これまで病気と考えられていなかったものも病気として不安を煽る製薬会社(62~65ページ)。ルイ・ヴィトンは日本ではフランスへの憧れをくすぐって徹底的にフランスらしさを演出して成功した。ルイ・ヴィトンの売上の中でフランスの消費者が占める割合はごく小さく(フランスのエリートはブランドを避けたがる)、ルイ・ヴィトンの製品の多くはインドで生産されているが日本向けのカバン類はフランスのイメージを保つためにフランス国内で生産されている(172~173ページ)。アップルのiTunesの使用許諾契約書には、iPhone、iBookの現在地を常時アップルが把握すること、アップルがその情報を第三者を分け合うことが記載されている(308~309ページ)。といったような、様々なメーカーの手口が紹介されているのが、とても興味深いところです。
大企業の手口の他にも、興味深い話が多々あります。ジャンクフードの中毒性について、高脂肪、高カロリー食品はコカインやヘロインと似た影響を脳に及ぼし、ラットへでの実験ではコカインやヘロインによるドーパミン受容体減少は2日で正常に復帰したのに対し肥満体ラットのドーパミン受容体が元に戻るには2週間かかった、つまりジャンクフードの中毒作用はコカインより長く持続する(92~93ページ)という恐ろしい話が紹介されています。全米の男性の15%は陰毛を剃っておりこれが流行し始めている(135ページ)とか。服を実際のサイズよりも小さめに表示して自分が細いサイズにフィットしたと思い込ませる「うぬぼれサイズ」の策略が女性服には何年も前から使われてきたが、これが男性服にも用いられてきている(137~138ページ)。大多数の人が20歳までに聴いた音楽を生涯愛し続け35歳を過ぎると新しいスタイルのポップミュージックが流行っても95%の人は聞こうとせず、新しい体験に対して開かれた窓は23歳で閉じ、初めての料理を受け入れる開放性は39歳で完全に閉じる人が多い(183ページ)。う~ん、確かに私は25歳くらいまでの歌しか覚えてない気がする。エコなどの社会的責任をうたう商品を購入する人は、たとえばオーガニックのハンバーガーを食べた後コークの空き缶を分別せずに捨てたり、他の面で無責任の行動を取りがちだとか(258~259ページ)。こういうの、気をつけないと…。私たちの脳は誰かにいい情報を教わりそれを別の人に教えるとき快感物質であるドーパミンが分泌される(329~330ページ)。人間は口コミが好きな動物ということですね。
実験結果とかは実験条件などがほとんど書かれていないので信用性を吟味する必要がありそうですが、様々な点で興味深い情報が満載で、とても勉強になる本でした。
原題:Brandwashed
マーティン・リンストローム 訳:木村博江
文藝春秋 2012年11月10日発行 (原書は2011年)