平安時代の日付の変更時刻、暁は何時頃かなど、平安時代の文学作品に見る時間について、通説と異なる著者の説の論証を試みる本。
著者は、平安時代の日付変更は午前0時ではなく午前3時であった、暁は寅の刻の午前3時から5時までを指し、「つとめて」はその後の卯の刻で午前5時以降、「有明の月は暁のそれも暗い時間帯に出ている月を表現するのが平安時代の有明の一般的用法だった」(78ページ)、「明く」は夜が明けるの意味ではなく日付が変わることすなわち午前3時になること、「夜もすがら」も「今宵」も午前3時までを指すという主張をし、源氏物語や枕草子、更級日記、和歌などの用例でその論証を試みています。
大変興味深いものですが、論証としては、日付変更が午前3時であること、そこから「明く」は午前3時が過ぎること、暁は午前3時からと順次前の論証ができていることを前提として次の論証をしていくという構成になっているので、1つが崩れると総崩れになりかねないリスクを抱えているように思えます。そこは、この点は論証できているからと前提にするよりも、全体としてこう解釈した方がさまざまな用例を説明できるでしょという説得の方がいいように見えます。
有明の月について、「夜が明けても、なお空に残っている月」とする古語辞典の通説的見解を誤りとして、有明の月は暁の時間帯の闇の時間に出ている(99ページなど)としていますが、著者が百人一首にある「有明」で唯一検証対象から外した(91ページ)「朝ぼらけ有明の月と見るまでに吉野の里に降れる白雪」は、有明の月を薄暮の空の月と考えないと理解しにくいように思えます。この点は、有明は午前3時以降を意味するので「暁の時間帯以降、例えば薄暮の空に薄く白く出ている月もやはり有明の月」(78ページ)という記載もあるのでいいかもしれません。しかし、「夜が明ける」の意味で動詞の「明く」が使われる可能性については、「もちろん、全くないとは言えないが、ほとんどその可能性はない」(104ページ)と著者は述べています。そうだとしたら、百人一首の「明けぬれば暮るるものとは知りながらなお恨めしき朝ぼらけかな」について、著者が論じる前提事実の「明けぬ」は午前3時になった、男女の別れは暁(午前3時から5時の暗い時間帯)ということからすると、この歌の作者が恨むべきは「朝ぼらけ」ではなく「暁」ではないかという疑問を生じます。
この本で論証ができたという位置づけではなく、通説への疑問をそれなりに小気味よく展開した本という読み方がいいかなと思いました。
小林賢章 角川選書 2013年3月25日発行
著者は、平安時代の日付変更は午前0時ではなく午前3時であった、暁は寅の刻の午前3時から5時までを指し、「つとめて」はその後の卯の刻で午前5時以降、「有明の月は暁のそれも暗い時間帯に出ている月を表現するのが平安時代の有明の一般的用法だった」(78ページ)、「明く」は夜が明けるの意味ではなく日付が変わることすなわち午前3時になること、「夜もすがら」も「今宵」も午前3時までを指すという主張をし、源氏物語や枕草子、更級日記、和歌などの用例でその論証を試みています。
大変興味深いものですが、論証としては、日付変更が午前3時であること、そこから「明く」は午前3時が過ぎること、暁は午前3時からと順次前の論証ができていることを前提として次の論証をしていくという構成になっているので、1つが崩れると総崩れになりかねないリスクを抱えているように思えます。そこは、この点は論証できているからと前提にするよりも、全体としてこう解釈した方がさまざまな用例を説明できるでしょという説得の方がいいように見えます。
有明の月について、「夜が明けても、なお空に残っている月」とする古語辞典の通説的見解を誤りとして、有明の月は暁の時間帯の闇の時間に出ている(99ページなど)としていますが、著者が百人一首にある「有明」で唯一検証対象から外した(91ページ)「朝ぼらけ有明の月と見るまでに吉野の里に降れる白雪」は、有明の月を薄暮の空の月と考えないと理解しにくいように思えます。この点は、有明は午前3時以降を意味するので「暁の時間帯以降、例えば薄暮の空に薄く白く出ている月もやはり有明の月」(78ページ)という記載もあるのでいいかもしれません。しかし、「夜が明ける」の意味で動詞の「明く」が使われる可能性については、「もちろん、全くないとは言えないが、ほとんどその可能性はない」(104ページ)と著者は述べています。そうだとしたら、百人一首の「明けぬれば暮るるものとは知りながらなお恨めしき朝ぼらけかな」について、著者が論じる前提事実の「明けぬ」は午前3時になった、男女の別れは暁(午前3時から5時の暗い時間帯)ということからすると、この歌の作者が恨むべきは「朝ぼらけ」ではなく「暁」ではないかという疑問を生じます。
この本で論証ができたという位置づけではなく、通説への疑問をそれなりに小気味よく展開した本という読み方がいいかなと思いました。
小林賢章 角川選書 2013年3月25日発行