北海道の湿原を中心に世界の湿原についてのエピソードを紹介する本。
湿原の研究を続けてきた植物生態学者の本ですから、著者が長く研究対象としてきたサロベツ湿原などでの植生を中心とした学問的な記述が続くのかと予想していたのですが、前半は湿原をめぐるある種トリビア的なというか雑学っぽいうんちくで、後半は各地の湿原の地勢と歴史の話が多くを占め、湿原と文学とかの文化・民俗的な話に及んでいます。
湿原で堆積する泥炭の話がそこここにあり、「火力は弱いがほのぼのとした温かさが伝わり一日中家にいるお年寄りには格好のものだったのだ。ストーブの上ではいつもお湯が沸いているし、時間をかけて煮込みやスープを作るのにはもっとも適していた。洗濯物もすぐに乾いた」(65ページ)とか、「麦芽の燻煙に用いられて独特の香りと味を出す泥炭がなければウィスキーは存在しない。逆に言えば、ウィスキー製造には泥炭しかなかったと言うべきかもしれない」(75ページ)などというのを読むと和らぎます。熱帯のマングローブ林でも、植物の生育が早く堆積量が多いので泥炭が堆積するがガサガサなので、農園などを作るために排水溝を掘って水位を下げると、たちまち分解が進んで泥炭層は縮んで薄くなり地盤沈下を起こし結局海水が逆流して植えた植物が枯れる上に泥炭が乾くと燃えやすく火事の危険がある(66~68ページ)という話は、熱帯での乱開発の虚しさを示唆しています。石狩湿原は明治初期には北海道で最も大きな湿原だったが、開発により極めて急速に消滅に向かった、「おそらく湿原の変化としては、もっとも短期間で急激な例と言えるだろう」(107ページ)ということとともに胸に刻んでおきたいところです。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/kaeru_en3.gif)
辻井達一 北海道新聞社 2013年3月15日発行
湿原の研究を続けてきた植物生態学者の本ですから、著者が長く研究対象としてきたサロベツ湿原などでの植生を中心とした学問的な記述が続くのかと予想していたのですが、前半は湿原をめぐるある種トリビア的なというか雑学っぽいうんちくで、後半は各地の湿原の地勢と歴史の話が多くを占め、湿原と文学とかの文化・民俗的な話に及んでいます。
湿原で堆積する泥炭の話がそこここにあり、「火力は弱いがほのぼのとした温かさが伝わり一日中家にいるお年寄りには格好のものだったのだ。ストーブの上ではいつもお湯が沸いているし、時間をかけて煮込みやスープを作るのにはもっとも適していた。洗濯物もすぐに乾いた」(65ページ)とか、「麦芽の燻煙に用いられて独特の香りと味を出す泥炭がなければウィスキーは存在しない。逆に言えば、ウィスキー製造には泥炭しかなかったと言うべきかもしれない」(75ページ)などというのを読むと和らぎます。熱帯のマングローブ林でも、植物の生育が早く堆積量が多いので泥炭が堆積するがガサガサなので、農園などを作るために排水溝を掘って水位を下げると、たちまち分解が進んで泥炭層は縮んで薄くなり地盤沈下を起こし結局海水が逆流して植えた植物が枯れる上に泥炭が乾くと燃えやすく火事の危険がある(66~68ページ)という話は、熱帯での乱開発の虚しさを示唆しています。石狩湿原は明治初期には北海道で最も大きな湿原だったが、開発により極めて急速に消滅に向かった、「おそらく湿原の変化としては、もっとも短期間で急激な例と言えるだろう」(107ページ)ということとともに胸に刻んでおきたいところです。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/kaeru_en3.gif)
辻井達一 北海道新聞社 2013年3月15日発行