現代の日本においてあるべき政策体系と政党政治についての政治学者である著者の見解を述べた本。
著者は、「政党共通の競争基盤」となるべき問題分野と政策体系を論ずべき問題分野を分け、前者を第2章で、後者を第3章から第6章で論じています。
前者では、「1.財政の持続性をいかに確保するか」と題して財政再建の枠組の堅持、「2.経済政策の共通基盤」と題して財政再建のめどをつけた上でのデフレ脱却と経済成長戦略、「3.地方分権の推進」、「4.外交・安全保障政策の前提条件」として日米関係の維持と近隣諸国との良好な関係の維持、日米安保と自衛隊の現状維持を挙げています。何よりもまず財政再建というあたりは財務官僚の回し者かとも思いますし、日米安保も自衛隊も現状維持が共通基盤というのでは、これまでの政党間の対立・論争を政策論争から除外しあるいは不毛な論争と断じて目をそらさせようとしているように見えます。
「両党の政策位置が近くなることは、決して悪いことではない」「社会全体が安定しているときには、中道的な立場に多くの支持が集まり、人々の意見の分布が正規分布をなすことが多い」「まさに日本で起こっていることは、こうした穏健で正規分布をなす有権者の下で、主要政党の政策的位置が似てきたという状況である」(279ページ)という著者は、端的に言えば、共産党や社民党などを無視して、保守系の2党か3党で、官僚が困らないような穏健な経済政策で競争していけばいいと考えているように、私には見えます。
政策体系を論ずべき問題分野としては、少子高齢化の下での社会保障のあり方、都市と農村の将来像、環境問題への対応、家族・ムラ等の人間関係に影響を与える教育・治安・情報通信政策を挙げています。政党が政策を競うべき分野の代表はこういうものでしょうか。このあたりにも、保守系でない政党を排除したい著者の思惑が表れているように、私には思えます。この中で、従来の政策対立として際立つ原発・エネルギー政策については「反対論と容認論が、一つのテーブルについて次の一歩について妥協点を探るとともに、将来の形についてはじっくりと議論を重ねて、新たなコンセンサスを作り上げるよう努める必要がある」(203ページ)としています。自らは結論を示さないという立場なのか、「じっくりと議論を重ねる」ことが権力を維持し官僚が舞台回しをする側・時間がたち原発事故の衝撃が薄れることで利益を得る側に有利に進むことを念頭に置いているのかはわかりませんが。
「はじめに」では「最終的な政策の姿には、あえて複数の可能性を残した」としています(12ページ)が、多くの場面では、著者の意見が1つ書かれているだけで、複数の方向性を示している分野はあまりないように思えます。著者が示唆する政策は、考え方として興味を惹かれ参考となる点も少なからずありますが、現状を根本的に変えるものは少なく、過去の政策について世間では批判が多い問題についてもそう悪くはないと評価してみせる点が多いことも併せ、官僚が歓迎する範囲内のものだろうなと思えました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/img_emoji/kaeru_ang2.gif)
飯尾潤 ちくま新書 2013年3月10日発行
著者は、「政党共通の競争基盤」となるべき問題分野と政策体系を論ずべき問題分野を分け、前者を第2章で、後者を第3章から第6章で論じています。
前者では、「1.財政の持続性をいかに確保するか」と題して財政再建の枠組の堅持、「2.経済政策の共通基盤」と題して財政再建のめどをつけた上でのデフレ脱却と経済成長戦略、「3.地方分権の推進」、「4.外交・安全保障政策の前提条件」として日米関係の維持と近隣諸国との良好な関係の維持、日米安保と自衛隊の現状維持を挙げています。何よりもまず財政再建というあたりは財務官僚の回し者かとも思いますし、日米安保も自衛隊も現状維持が共通基盤というのでは、これまでの政党間の対立・論争を政策論争から除外しあるいは不毛な論争と断じて目をそらさせようとしているように見えます。
「両党の政策位置が近くなることは、決して悪いことではない」「社会全体が安定しているときには、中道的な立場に多くの支持が集まり、人々の意見の分布が正規分布をなすことが多い」「まさに日本で起こっていることは、こうした穏健で正規分布をなす有権者の下で、主要政党の政策的位置が似てきたという状況である」(279ページ)という著者は、端的に言えば、共産党や社民党などを無視して、保守系の2党か3党で、官僚が困らないような穏健な経済政策で競争していけばいいと考えているように、私には見えます。
政策体系を論ずべき問題分野としては、少子高齢化の下での社会保障のあり方、都市と農村の将来像、環境問題への対応、家族・ムラ等の人間関係に影響を与える教育・治安・情報通信政策を挙げています。政党が政策を競うべき分野の代表はこういうものでしょうか。このあたりにも、保守系でない政党を排除したい著者の思惑が表れているように、私には思えます。この中で、従来の政策対立として際立つ原発・エネルギー政策については「反対論と容認論が、一つのテーブルについて次の一歩について妥協点を探るとともに、将来の形についてはじっくりと議論を重ねて、新たなコンセンサスを作り上げるよう努める必要がある」(203ページ)としています。自らは結論を示さないという立場なのか、「じっくりと議論を重ねる」ことが権力を維持し官僚が舞台回しをする側・時間がたち原発事故の衝撃が薄れることで利益を得る側に有利に進むことを念頭に置いているのかはわかりませんが。
「はじめに」では「最終的な政策の姿には、あえて複数の可能性を残した」としています(12ページ)が、多くの場面では、著者の意見が1つ書かれているだけで、複数の方向性を示している分野はあまりないように思えます。著者が示唆する政策は、考え方として興味を惹かれ参考となる点も少なからずありますが、現状を根本的に変えるものは少なく、過去の政策について世間では批判が多い問題についてもそう悪くはないと評価してみせる点が多いことも併せ、官僚が歓迎する範囲内のものだろうなと思えました。
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飯尾潤 ちくま新書 2013年3月10日発行