伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

封鎖

2013-06-02 23:38:26 | 小説
 神戸近郊の山間の人口60名弱の集落で鳥インフルエンザ患者が連続発生し、感染症対策の権威の助言により行政は極秘裏に集落の交通と通信を遮断して封鎖するという設定のパンデミックパニック小説。
 封鎖を推進する感染症対策研究者と行政、封鎖された集落内のお上意識の強い追随派・穏健派・強硬反対派の対立を描きながら、新型インフルエンザ発生の危機を前に大規模感染を防ぐために小規模集落を見捨てることの是非と見捨てられる側に置かれた人々の心情とそのような条件下に置かれた人々に表れる人間性を描いています。著者自身が、封鎖の是非について最終判断ができない迷いをそのままに作品化しているように感じられます。登場人物の誰に共感するかはさまざまでしょうけど、私には鈴野努がグッときました。
 封鎖の是非について、封鎖自体は対策としてありうるしむしろ有効だという主張を少なくとも内包している医療関係者たち、極秘裏の封鎖の情報を得ながら無視・軽視する新聞記者たちの姿は、この作品が、大学院の医学系研究科修士課程修了、新聞記者の経歴を持つ作者によって書かれていることを考えると、重みを持って心に訴えかけてきます。
 50代の私にはカミュの「ペスト」を意識させる設定ですが、鳥インフルエンザやSARSをめぐるパニックを経験し、パンデミック小説が多数書かれている現在では、封鎖に何か他のテーマを読み取ることもなくごく単純に近い将来現実にありそうな話として読んでおくべきでしょう。


仙川環 徳間書店 2012年10月31日発行
コメント
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