伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

なぜタクシーは動かなくてもメーターが上がるのか

2013-06-08 20:57:00 | 人文・社会科学系
 タイトルのような交通と料金をめぐる疑問について交通経済学の立場から解説する本。
 タイトルの疑問について、著者は、タクシーは利用客を自ら選別できず利用客の指示する通りの道を走行しなければならないことを理由に、その客を乗せなければタクシーが稼げたはずの利益に当たる費用(機会費用)を客に負担させるという考えで合理的に説明できるとしています(62~65ページ)。しかし、渋滞を客が知っているわけでもなくましてや渋滞が客のせいでもなく、客は行き先を指定するだけで経路はタクシー運転手が選択することもままあることを考えると、私はあまり釈然としません。著者が続けて鉄道の場合は客は早く着くことを予定してその時間を買う意味で特急料金を支払っているから延着の場合払い戻すと説明しているのを見ると、タクシーの乗客もタクシーなら他の交通機関より速く目的地に着けると思うからこそタクシーに乗る場合が多いと思われ、ますます納得できませんでした。
 混雑について、著者は電車についても道路についても混雑は基本的に利用者側に原因がある、事業者に文句を言うなという姿勢を示し(31~32ページ、144~153ページ)、「電車混み合いまして、まことに申し訳ございません」などという低姿勢は駅員への暴力の温床になっているのかもしれない(30ページ)などと謝る必要などないという立場を取っています。朝夕のラッシュ時に関してはそういえると思いますが、ラッシュ時以外では鉄道会社の利益を最大化するために運行間隔を開けてそのためにラッシュ時以外でも満員電車ということもままあり、電車の遅れや運転間隔調整などのために超満員となることも珍しくありません。満員電車の混雑に鉄道会社の責任が全然ないとは私には思えませんが。
 上の例も含め、事業者や役所が現在行っていることについて、一般人の目からは不合理・理不尽に思えることを合理性があるんだとあれこれ理屈をつけて擁護していると感じられるところが多いように思えました。エピローグで著者は「現実の政策を扱うために、交通経済学者は審議会や各種の行政機関の会議などに駆り出されることが多く、そうした会議に出ているということだけで、『御用学者』などというあらぬ謗りを受け、濡れ衣を着せられなくてはならない」と嘆いています(237ページ)が、濡れ衣というべきかどうか。
 弁護士の立場からは、飲酒運転の厳罰化はひき逃げを増やす恐れがある(98~100ページ)という指摘は、なるほどと思います。交通事故の損害賠償に関して論じているところ(84~88ページ)で、著者は、日本の交通事故での損害賠償が「逸失利益」(事故による死傷のために得られなくなった収入)だけで慰謝料がないと誤解しているようで、困ったものだなと思いました。


竹内健蔵 NTT出版 2013年4月30日発行
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする