父親の仕送りで生活する25歳の大学院生白石珠が、一方で向かいに住む45歳の大手出版社児童書籍編集部長石坂史郎を執念深く尾行してその不倫を覗き続け、他方で53歳の女優の運転手のアルバイトをする27歳の同棲相手卓也の女優との浮気を疑い妄想する様子を描いた小説。
主人公は、石坂を尾行するに当たって「文学的・哲学的尾行」であるなどと言って正当化し、自分は別居中だったとはいえ妻子ある男とそれをわかって不倫の関係を持ちその男がスキルス性癌で死んだことで茫然自失して大学を留年し就活をする気力もないことから大学院に行きその学費・生活費をすべて父親に依存しつつ母親が死んだ後に水商売上がりの女性と暮らす父親(少なくとも不倫ではない)を軽蔑し批判し、自分はゼミの教授及び石坂にモーションをかけたが相手にされなかったために浮気・不倫に至る行動は踏みとどまったというレベルなのに何の根拠もなく同棲相手の卓也には母親世代の女優との浮気の疑いをかけて妄想しなじるという、自分に甘く他人に厳しいダブルスタンダードの価値観を、それと意識せずに持ち続けるとても身勝手な人物です。読んでいると、ここまで自分を客観視できないものかと呆れます。でも、読んでいるうちに、人間多かれ少なかれこういう身勝手さを持ち、自分が見えていないところはあるかなと思えてきて、そういうところに思いをいたすべき作品なのかなと、終盤には思いました。
小池真理子 角川書店 2012年6月30日発行
主人公は、石坂を尾行するに当たって「文学的・哲学的尾行」であるなどと言って正当化し、自分は別居中だったとはいえ妻子ある男とそれをわかって不倫の関係を持ちその男がスキルス性癌で死んだことで茫然自失して大学を留年し就活をする気力もないことから大学院に行きその学費・生活費をすべて父親に依存しつつ母親が死んだ後に水商売上がりの女性と暮らす父親(少なくとも不倫ではない)を軽蔑し批判し、自分はゼミの教授及び石坂にモーションをかけたが相手にされなかったために浮気・不倫に至る行動は踏みとどまったというレベルなのに何の根拠もなく同棲相手の卓也には母親世代の女優との浮気の疑いをかけて妄想しなじるという、自分に甘く他人に厳しいダブルスタンダードの価値観を、それと意識せずに持ち続けるとても身勝手な人物です。読んでいると、ここまで自分を客観視できないものかと呆れます。でも、読んでいるうちに、人間多かれ少なかれこういう身勝手さを持ち、自分が見えていないところはあるかなと思えてきて、そういうところに思いをいたすべき作品なのかなと、終盤には思いました。
小池真理子 角川書店 2012年6月30日発行