伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

誰も知らない「添加物」のカラクリ

2013-06-29 21:35:25 | 自然科学・工学系
 食品添加物について、巷間流布されている誤解をただすことを目的として説明した本。
 著者は長らく東京都立衛生研究所に勤務し、日本食品衛生学会会長、厚生労働省薬事・食品衛生審議会添加物部会委員などを歴任し、基本的に行政の立場から、食品添加物の許可は慎重になされており、「安全性の確認はこれ以上ないほど厳密に行われています」(149ページ)、1日あたり摂取量は人間が毎日一生食べ続けても健康への悪影響がないと認められる量(152ページ)で、実際に食品メーカーが使用する食品添加物は許可量よりも少ない量しか使われていないことが多い(153ページ)、検査機関が抜き取り検査を常時行っており検査件数は東京都だけでも年間5万件近くに上るが過去基準値オーバーで回収・廃棄された国内製品の例はほとんどありません(153~154ページ)などと、食品添加物と市販されている食品の安全性を強調しています。
 しかし、検査で違反がほとんどないといっているのに、東京都内で食肉へのニコチン酸添加(鮮度のごまかしのため)による中毒が発生したので食品衛生検査員が調査したら30軒の食肉店からニコチン酸を使用した肉が発見されたという話が紹介されています(164~166ページ)。これはまさに実際には違反例があるのに被害が出るまで検査では発見されなかったということを意味しています。
 そして、著者は、天然の食品由来の化学物質でも化学的合成品でも体に入ればまったく同じ(26ページ)、「添加物の亜硝酸も、自然の作物の亜硝酸も体に入ればまったく同じだということがはっきりわかっています」(120ページ)と断言し、遺伝子組み換えも品種改良も同じだ(88~91ページ)としています。その化学物質だけを取ってみればそうかもしれませんが、天然の食品にはさまざまな物質が組み合わされて含まれ微量元素も含めてその組み合わせでの摂取が長年続けられて、その過程で安全性が試されてきています。工業的に合成した化学物質は、製造工程で食品由来とは異なる不純物を伴うこともあり逆に不純物・微量元素なく純粋に製造されたりします。その人体への影響は天然の食品としての組み合わせで摂取したときと必ず同じとは限らないと、私は思います。品種改良も、10年20年とかけてなされる過程で生物としての安定性や安全性が確認されていくわけで、ごく短時間の操作で特定の遺伝子のみをいじる遺伝子組み換えよりも安全性についての信頼度が高いと考えることを誤りだという気には、私はなれません。
 また、食品添加物の相乗作用について「何種類もの食品添加物を同時に摂取した場合、その毒性が『足し算』で増えることはあっても、『掛け算』で増えていくということはありません」(145ページ)としています。しかし、食品添加物を複数同時摂取した場合の健康影響についての実験は行われていないと思いますし、少なくともすべての組み合わせの実験が行われているとは到底考えられません。この著者は、なぜこのように言いきれるのでしょうか。
 ビタミンなどは食品添加物名(ビタミンB1はチアミン塩酸塩、ビタミンB2はリボフラビン、ビタミンEはトコフェロールなど)で記載すると敬遠されるのに、同じ物質がサプリメントや健康食品としてありがたられる(22~24ページ)とか、微生物は水が好きなので濡らすと繁殖するため洗ってない手より雑に洗った手の方が微生物数が多い(79ページ)という指摘には、なるほどと思いましたけど。


西島基弘 青春新書 2013年5月15日発行
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