伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

日本文化の論点

2013-06-27 20:22:04 | 人文・社会科学系
 インターネットやサブカルチャーが持つ「日本的想像力」、著者のいう「夜の世界」の文化が、旧来の昼の世界の文化を凌駕していくという方向性を志向しつつ文化批評を行おうとする本。
 日本は、ソフトではなく、作品を楽しむ消費環境・舞台装置(マンガ・アニメとの関係でコミケ、ボカロ・初音ミクとの関係でニコ動など)をまるごと輸出することで勝負すべきだという指摘(31~37ページ)は、なるほどと思いました。
 しかし、この本の中心的議論は、AKB48が現代の日本文化の最大の論点(113ページ)であり、巨大な文化運動(123ページ)であるという点にあり、この著者の設定する枠組(前田敦子なき後のAKB48の未来こそが「人類史的な問題」である:28ページ)にどれだけ違和感を待つ/持たないかでこの本の評価はほぼ決まると思います。著者の「推しメン」という横山由依(160ページ)って誰?としか反応できない私の評価はいうまでもないでしょう。
 「アイドルをはじめとするこの種の性的な魅力に訴える文化現象をジェンダー論的な視点から擁護することは難しい。そこには多かれ少なかれ、性暴力的な要素が確実に存在してしまうことになる」(143~144ページ)といいながら、「ポップカルチャーにおける性の商品化については『自分はその暴力性に自覚的である』という自意識をいくら訴えても、そうした行為はむしろ自己反省のポーズを取ることで批判を回避する防衛としか機能しない。それよりも、むしろ多様な消費のかたちを肯定し、推進することで、多様なセクシュアリティの表現を獲得する戦略を僕は考えたい」(144~145ページ)というのはどういうことでしょう。自己反省のポーズを批判して反省さえせずに開き直ることが問題の解決となるのでしょうか。暗い問題点を隠蔽し「多様な」という言葉でポジティブなイメージを作りたがる人々の手口は、例えば労働者派遣業法を作り派遣対象業務を拡大する過程で女性が「多様な」働き方を選択できるという宣伝文句を並べ立てたやり方(その結果は正社員のリストラと非正規労働の拡大、格差社会の確立と拡大だったことが今では明らかだと思います)を思い起こします。著者がそういう方向性を志向しているとは思いませんが。


宇野常寛 ちくま新書 2013年3月10日発行
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