老舗の呉服屋の一人娘で新たにアンティーク着物の店を始めた麻子と麻子の元同僚のブライダル企画会社のサラリーマンの夫誠司、父が創業した葬儀社チェーンの一人娘で幼い頃伯父に強いられた倒錯的な性行為のトラウマと性癖に囚われる千桜と逆玉となったやり手の営業部長の夫正隆の4人が、千桜の伯母が残した古い着物を麻子が買い付けに京都を訪れたことから知り合うようになり、麻子と正隆、千桜と誠司が肉体関係を持ち互いに入れ込んでいく様子を描いた恋愛・官能小説。
互いにちょっとしたことで不満を持ちすきま風が吹きつつ、淡泊な性生活を続ける2組の夫婦が、お互いに他方の夫婦を仲がいい夫婦とうらやみながら他方にこれもまたちょっとしたポイントで惹かれのめり込んでいく様子が、いかにもありそうで考えさせられます。不満に思っていることはそれほどのことでもなく、だから夫婦として続いているけれども、それでも心は離れてしまっている。惹かれる相手の魅力もたいしたことではなく(現にその伴侶には魅力なしと見切られている)、おそらくはつきあって何か月かすればあらが目立ってくることも予想されるのに、思いを遂げる前には不倫に踏み出すほど魅力的に見える。性生活上の好みや希望を夫婦であるが故に伝えられない/聞けないで、不倫の相手にはそれができる故に魅力的に見え最高のパートナーとさえ思える。冷静に振り返れば、今の伴侶がやはりよいと見える場合でも、思い込んでいるときはそうはとても見えない。それが男と女、それが人生、だからこそ味わいがあるんじゃないですかと作者にいわれているような気がします。
ありがちに見えながら深い問いかけをされているような気がして、官能小説(と分類してしまうほどには濡れ場が多いわけでもないですが。表紙は持ち歩くには恥ずかしいですけど)の割には、いろいろ考え込み、また感じ入ってしまいました。
「きれいだ…などとロマンス映画のようなセリフは御世辞にも言えない。千桜に限らず、女の秘所とはどれも凶暴でグロテスクなものだ」(217ページ)という感性はやはり女性の作家ならではかなと思います。千桜の幼い頃の性的虐待への受け止め方には、どうかなという思い(本当に被害を受けた人の傷はそういうものではないんじゃないか)と切なさを感じ、戸惑いました。この作品のように千桜と正隆が最後にはわかりあえるとすれば、ちょっと胸が温かくなりますが。
村山由佳 文藝春秋 2012年2月10日発行
互いにちょっとしたことで不満を持ちすきま風が吹きつつ、淡泊な性生活を続ける2組の夫婦が、お互いに他方の夫婦を仲がいい夫婦とうらやみながら他方にこれもまたちょっとしたポイントで惹かれのめり込んでいく様子が、いかにもありそうで考えさせられます。不満に思っていることはそれほどのことでもなく、だから夫婦として続いているけれども、それでも心は離れてしまっている。惹かれる相手の魅力もたいしたことではなく(現にその伴侶には魅力なしと見切られている)、おそらくはつきあって何か月かすればあらが目立ってくることも予想されるのに、思いを遂げる前には不倫に踏み出すほど魅力的に見える。性生活上の好みや希望を夫婦であるが故に伝えられない/聞けないで、不倫の相手にはそれができる故に魅力的に見え最高のパートナーとさえ思える。冷静に振り返れば、今の伴侶がやはりよいと見える場合でも、思い込んでいるときはそうはとても見えない。それが男と女、それが人生、だからこそ味わいがあるんじゃないですかと作者にいわれているような気がします。
ありがちに見えながら深い問いかけをされているような気がして、官能小説(と分類してしまうほどには濡れ場が多いわけでもないですが。表紙は持ち歩くには恥ずかしいですけど)の割には、いろいろ考え込み、また感じ入ってしまいました。
「きれいだ…などとロマンス映画のようなセリフは御世辞にも言えない。千桜に限らず、女の秘所とはどれも凶暴でグロテスクなものだ」(217ページ)という感性はやはり女性の作家ならではかなと思います。千桜の幼い頃の性的虐待への受け止め方には、どうかなという思い(本当に被害を受けた人の傷はそういうものではないんじゃないか)と切なさを感じ、戸惑いました。この作品のように千桜と正隆が最後にはわかりあえるとすれば、ちょっと胸が温かくなりますが。
村山由佳 文藝春秋 2012年2月10日発行