危機管理においては最悪のシナリオを想定し、それを回避するために/あるいは最悪の場合には何をすべきかを検討すべきであるのに、福島原発事故の際には、後に知られた近藤俊輔原子力委員長らの最悪のシナリオが政府に提出されるまでになぜ2週間もかかったのか、またそれ以外に自衛隊や米軍は最悪のシナリオを作っていなかったのかという点を追及したドキュメンタリー。2021年3月6日放送の NHK ETV特集「原発事故“最悪のシナリオ”そのとき誰が命を懸けるのか」の取材を取りまとめたもの。
たぶんそうだろうという意味では大きな驚きがあるわけではないですが、隠されていた事実のディテールに迫っていくストーリーは迫力があります。
事故の被害の拡大を防ぎ、より有効な手を打つためということであれば、「最悪のシナリオ」は「事故後速やかに」ではなく、事故前、原発の運転が開始される前に作成・公表されるべきだと思いますが、そういう点には言及されません。そのあたり、叩く相手は今や野党の民主党というところが安易な感じがします。
この中で、福島事故時自衛隊のブレーンとして助言していた元通産技官が、原子力安全・保安院の幹部に依頼されて2009年に「原子力発電所の稼働率・トラブル発生率に関する日米比較分析」という論文を公表していた、その目的は「そのころ東電はほかの国内の電力会社と比較しても突出して数多くのトラブルを発生させており、保安院の内部ではそれを是正させる必要が議論されていたという。しかし東電は自分たちの技術力を過信し、保安院等の指導に応じないことが多々あった」ので東電の姿勢に切り込むためだった、しかしその論文が出るのと同じタイミングでその幹部は異動となり「論文が保安院内部でまともに取り上げられることはなかった」と紹介されています(191~192ページ)。私には、福島事故前にこういう保安院内での動きや暗闘があったということが、実は一番興味深く読めました。
石原大史 NHK出版 2022年2月20日発行
たぶんそうだろうという意味では大きな驚きがあるわけではないですが、隠されていた事実のディテールに迫っていくストーリーは迫力があります。
事故の被害の拡大を防ぎ、より有効な手を打つためということであれば、「最悪のシナリオ」は「事故後速やかに」ではなく、事故前、原発の運転が開始される前に作成・公表されるべきだと思いますが、そういう点には言及されません。そのあたり、叩く相手は今や野党の民主党というところが安易な感じがします。
この中で、福島事故時自衛隊のブレーンとして助言していた元通産技官が、原子力安全・保安院の幹部に依頼されて2009年に「原子力発電所の稼働率・トラブル発生率に関する日米比較分析」という論文を公表していた、その目的は「そのころ東電はほかの国内の電力会社と比較しても突出して数多くのトラブルを発生させており、保安院の内部ではそれを是正させる必要が議論されていたという。しかし東電は自分たちの技術力を過信し、保安院等の指導に応じないことが多々あった」ので東電の姿勢に切り込むためだった、しかしその論文が出るのと同じタイミングでその幹部は異動となり「論文が保安院内部でまともに取り上げられることはなかった」と紹介されています(191~192ページ)。私には、福島事故前にこういう保安院内での動きや暗闘があったということが、実は一番興味深く読めました。
石原大史 NHK出版 2022年2月20日発行