「本場の本」に語らせようとすると次の壁が現れました。
翻訳権の問題がそれです。
原著書は、1934年に出版された本です。
鹿嶋の手元のものは、古本屋で探し出すようなボロボロになった本でした。
著者ミードは1982年に死んでもういなかった。
米国では著作権は著者の死後70年有効です。
権利は今も生きている。
ミードの親族がどうなっていて、著作権がどこにあるのかさがさなければなりませんでした。
筆者の知識不足もあって、試行錯誤しました。
苦労の末にやっと問題は解決しました。
そうすると、また次の壁が出てきました。
邦訳に使える日本語がないのです。
実情はこういうことです~。
~原著者ミードが書いていることは、これまで、政治権力によって「歴史記録に値しないものとされてきた」活動なのです。
言い換えれば、「存在しないものと扱われてきた活動」です。
このあたりをもう少し詳しく言うと~
キリスト教は発祥以来、、初代教会と呼ばれた教会の活動方式で100年余にわたってやってきました。
この方式では、信徒個々人に聖書解釈を自由にさせておきます。
そして信徒たちを数人の小グループを形成させ、そこで、互いの解釈を自由に議論・吟味させる、という方式をとる教派なのです。
初代キリスト教会は、発足後100年間、この方式だけでやりました。
(今も、米国南部のサザンバプテスト教会や北西部のメノナイト教会では、それを継承しています)
その方式で、発足してわずか30年のうちに、ローマ帝国全土に信徒の小集団が散在するほどに大発展しました。
<後発教団が急成長し国教に>
ところが紀元後2世紀中頃に、初代教会から後発したカトリック教団が、急成長した。
この教団は、教団の幹部が「正しいとする」聖書解釈を一つ造って、それを正統教理として信徒に与えて活動していくという、そういう方式で活動する教団でした。
この教団が急成長し、ローマ帝国の国教となって、政治権力を握り、公式歴史の作成権を握ったのです。
そして本家本元の教会活動を、公式歴史で「記するに値しないもの」と扱いました。
カトリック教団は本家本元を徹底的に迫害し、その存在を事実上、歴史記録から抹殺したのです。
そういう歴史が現在も人類社会では公式の歴史教科書となっています。
だから、今日までその存在が認知されないで来ています。
(その結果、人類は今も、キリスト教はカトリック(旧教)とプロテスタント(新教)よりなっている、と信じているのです)
+++
存在しないものとされた事柄には、人々はそれを説明する言葉もつくりません。
言葉とは、みんなが「存在を承認・同意する」ものを伝え合うために出来上がっていくものですからね。
鹿嶋は、その存在を説明する言葉を、一つ一つ造る必要に立たされました。
<そのままでは使えない言葉もあった>
また一見言葉があるように見えても、事実から外れた言葉で、そのままでは使い物にならない、というのもありました。
原著書の題名からしてそうだった。
原題は「ザ・バプテスト」です。
+++
「バプテスト」という日本語はありますよ。
だけどそれは公式の歴史常識では、キリスト教の中のプロテスタントの一派ということになってきています。
だが、真実はそうでないのですね。
プロテスタントというのは、カトリックと同じ方式で教会運営をします。
教団の幹部が「これは正しいとする」聖書解釈を一つ造って、それを正統教理として信徒に与えて活動していく、そういう方式で活動します。
この点では、カトリックと同じで、カトリックの一派ともいえるものなのです。
+++
ところが、原著書で「バプテスト」と称される人々の「真実のところ」は、本家本元の初代教会の方式で活動していました。
その教会が、ローマ帝国の国教になって、政治権力をつかんだカトリック教団に黙殺されてきた。
だから、本来の意味での「バプテスト」という言葉は(いまもこの世に)存在していないのですね。
<原著者はジャーナリストだった>
で著者ミードはどうかというと、この黙殺された人々を(おおまかに)意味して「バプテスト」という語を使っていたのですね。
彼はキリスト教ジャーナリストでした。
(米国にはそういう職業があるのですね。日本の仏教ジャーナリストのようなものでしょうか)
つまり、神学者でなかったこともあって、その時その場の言葉を説明抜きに、直感的にざっくり使っていたのです。
だけど、その言葉をそのまま邦訳書で使えば、日本では、前述した「プロテスタントの一派」という意味でしか受け取られません。
さすれば、読者は誤解の波に流されていってしまうでしょう。
だからこの言葉はそのままでは使えなかった。
そこで、自由吟味者という語をくっつけて「バプテスト自由吟味者」という語を私は造りました。
理由も十分説明して使いました。
+++
ことほど左様に、新しく説明を加えて使わないとわからない用語が、沢山ありました。
鹿嶋は、ひとつひとつ新語を造り、邦訳文を造らねばならない、という用語の「壁」に直面したのでした。
この壁は厚かったな。
最後にアナウンスです。
これまでの本の10倍以上のエネルギーを注いだ
『バプテスト自由吟味者』は
10月5日からアマゾンで発売予定です。
(それ以前にも、注文は予約注文としてキープされます)
(完)