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マックス・ウェーバーという大物社会科学者がいます。
彼は政治、経済、宗教など人間社会に関わる事象全般を考究しています。
だから政治学者、経済学者などの呼称がみな役者不足になりまして、しかたなく社会学者といわれました。
だけどアメリカで社会学なる分野名称が出来て普及しますと、これも役者不足になります。
そこで筆者は仕方なく社会科学者と呼んだわけです。
がとにかく彼はそれほどの大物でして、筆者が経済学を学び始めた1960年代には、
彼とマルクスは社会科学の二大天才となっていました。
その彼が「支配の社会学」という論文で、国家の統治を成立させる二本柱をあげています。
支配というのは、この場合、統治と同じ意味です。二本柱は~
①正当性意識
②物的暴力手段
~です。
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<正当性意識>
正当性意識というのは、現在の統治者とその統治に対して国民が「正統である」と思う、その思いです。
これがないと、人民は統治者の作る秩序(ルール)に従おうとしませんし、
命令にも従いたくない気持ちになります。
統治が成り立つには少なくとも、過半数は当該統治者の支配を「正統である」と思ってくれることが必要だ。
でないと秩序に反するやつは捕らえて牢屋に放り込んだらいいといっても、
逮捕者の数に牢屋が追いつかなくなってしまいます。これでは統制は崩壊します。
だからまず、国民の大多数に正当性意識がなければならない。
・・・なるほど、それはわかります。
ところがウエーエーバーはそれだけでは十分でない、といいます。
もう一つの柱がいる、というのです。
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<物的暴力手段>
それが②物的暴力手段です。
暴力とは、「相手の身体に害を及ぼすような力」です。
こういうと、暴力手段などを持つのは文化国家のすることではない、
という思いを抱く人もいるでしょう。
確かに暴力手段は文化的なものではありません。
だがそれは、国家統治が成り立つには必要な手段だと彼は考えます。
国家の物的暴力手段とは具体的には警察と軍隊を指しています。
ウェーバーがこれも必須要素だというのは、なぜでしょうか?
統治者は自分の価値観に沿って、ルールを作り、命令を発し、国を運営していきます。
だが国家という社会集団には、いろんな価値観をもった人間がいるものです。
中には統治者と対立する価値観をもっているのもいる。
たとえば統治者が「この国は共産党の一党独裁制がいいのだ」
という価値観で国家運営しているとします。
その国にも、「いや民主制による国家運営がいいのだ」という価値観をもつ国民もいるのです。
逆の場合もあるでしょう。
民主制国家の中に、「有能な政治家の独裁制の方がいいのだ」、と言う人も。
このような場合、統治者が対立する価値観をもった人々を説得して同意させるというのは難しいです。
その結果、自然なままでは、統治者と対立する価値観の人間が、
自分の思想そのままで社会で言動することも起きます。
でもそれを放置すると国家社会の秩序は希薄になり、統治が崩壊の危機に瀕します。
そこで統治者は、こういう存在は物的な力で従わせなければならなくなります。
この場合の物的な力が、「相手の身体に害を及ぼすような力」です。
物理的に懲らしめるわけです。
それすなわち暴力です。
統治者がこの力を発揮するための手段が暴力手段です。
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<警察と軍隊>
警察は主に国内の人民に対して身体的害を及ぼしうる手段です。
軍隊は主に、外部の国の人民が自国の人民に身体的な害を及ぼそうとてきた場合、
それらに身体的害を及ぼしうる手段です。
他国の人民が自国の人民や施設を破壊することもありえます。
すると自国内の秩序も物的な力で壊されていきます。
こうした他国の物的な力を逆に破壊し、自国の統治秩序を守る。
そのための手段が軍隊です。
だが軍隊もまた、警察の力が足りないときには、国内の秩序維持に働き得ます。
ウェーバは国内統治に主眼を置いて統治を説明をしていますので、
軍隊もその面で理解していいかもしれません。
がとにかく、こうした物的暴力手段もまた、
国家の統治を成り立たせるには必要な要素だと、ウェーバーは言うわけです。
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<天才マックス・ウェーバー>
ウェーバーという人は、元来多様で複雑な現実の本質的なところを洞察し、
切れのいい言葉(概念)を考案して現実をスパッと切り取ってみせる、
~そういう才能に長けた人でした。
それもとても「鋭い概念構成」でして、目から鱗の気持ちにさせてくれます。
実際、筆者が前回に示した、統治ができあがっていく歴史的プロセスも、
ウェーバーのこの概念メガネを通すと、きれいに整理されるような気がしてきます。
「ああ、あのへんは正当性意識が出来ていく話だなあ」
「この辺は物的暴力手段が確立していく話だなあ」
~といったようにです
これが天才というものでしょうか。
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