ベルリンの壁が崩壊したので、マルクス思想はもう完全に過去のものとなった、という印象が続いてきている。
だけど実際にはその影響力は、いまでも、他の社会思想を遙かに超えた力を持っています。
まず、これほどに「わかりやすい」社会思想は他にありません。
マルクス思想は、原理を正確に理解してなくても、下記のような風に漠然とした理解をしても、
感覚的によくわかるのです。
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「資本主義社会では資本家が労働者を搾取しているぞ」
「だから平等は実現されないぞ」
「実現するには、市場で価格が決まる方式をなくせねばならないぞ」
「そのためには、私有財産制をなくし、中央政府が正義でもって経済を運営できるようにせねばならない」
「目を覚ませ、みんな立ち上がろう!」
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これって、とりたてて経済学を学んでない一般大衆にも、具体的なイメージ湧くよね。
だから大勢がこの思想を共有できる。
容易に共有できるから、一つの社会勢力が容易に形成できるのです。
<蒋介石が敗れたのも>
中国では、戦中、戦後を通して、蒋介石と毛沢東が覇権を争いました。
結局、毛沢東が勝ったのも、より多くの人民を一つに結集できたからです。
上記のようなマルクス思想は、学びの機会を持たなかった、貧しい中国大衆にもわかりやすかった。
これに比べたら、「自由市場の働きで経済が機能する」といったような思想はわかりにくかった。
だから、毛沢東の共産主義思想の方が、より多くの人民を一つに結集させることが、時とともに出来ていったのです。
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この「わかりやすさの力」は、いつでも健在です。
いまでは中国は「市場制社会主義」ともいうべき方式の国家です。
土地の私的所有は認められず、国家の所有となっていますけれど、
それが人民に貸し出され、私的に効率を求めて運営するのを許している。
工場も、国営だけでなく、私営も許されています。
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だけど、人民には上記のような「漠然マルクス思想」を抱かせて、国家の一体性を形成しています。
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社会思想というのは、それを抱く人間の心にそのメッセージを発し続けます、
メッセージは四六時中、人の心に影響し続ける。
中国はだから今でも、物理的には市場制社会でありながら、思想的には共産主義国家です。
「(漠然)マルクス思想」は現在も、その力を世界に発揮し続けているのです。