ホン・サンスの映画って、普通の映画のように「さあ今から映画が始まるよ」といったところが全然ない。あたかもそこらの小説を読むように自然に入り、そしてしかしラストで読者は思いがけない発見をして何それ?で終わるのだ。
本作も全くそう。長くアメリカに移住していた元女優が突然韓国に帰ってくる。妹はなぜと疑問を抱えながら何気なく財産状況などを聞くが女はそんなのないとうそぶく。しかし女は昔住んでいた家を訪ねたり、どうも何やらあるらしい。
ランチと称して会った男は映画監督らしいが、何か本心を出さず、それでもあなたと映画を撮りたいと女に言う。しかし、特に脚本を用意しているわけでもなく、すると女はあと5,6か月の寿命だからと出演を断る。監督は体を求めていると直球に話すと、女はいいわと返す。
路地の傘を差しながらの二人でタバコをふかすシーンは実に美しい。何気ないシーンなのに、とても秀逸だ。印象に残った。
そして次の日に出発するはずだったロケハンだったが、監督からメールでお断りの連絡が入っていて、女は高笑いをする。そしてジエンド。
大人の感覚をもってして作られた映画です。恐らく5,6か月の命なんていうのも女が男を探り合うための手段(嘘)であろうし、結局ホン・サンスは観客でさえスクリーンの後ろから窺っているようだ。
監督と女が昼からの酒会を交わしていたのも「小説」という店だったこともあり、また味わい的にも秀逸な短編小説の香りのするこの映画、まさに見事な小説と言えよう。ホン・サンスは名短編作家でもあるのだ。
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