体裁はいわゆる完全にハードボイルドものなんだけど、全体に沁み亘るそこはかとした哀しみが感じられ一気読みをしてしまう。そうなんだよね。ミステリー好きの僕でも、トリックだけの小説は最近はどうでもよくなってきました。やはり人間に飢えているんですよね。人間をしっかり書いた小説を読みたいんですよね。そういう時にこの小説を見開いた、、。
元刑事。今はその日暮らしの肉体労働者。妻と離婚をし、慰謝料代りに親から相続したボロ家を売却しようとしている。売れたら出ていかなければならない家に仕方なく住み着いた人たちが3人もいる。みんなどこかに深い傷を負っている。似た者同士。そんな一瞬の疑似家族にも冷風が吹き込むことになる、、。
途中披露される「虹の種」がすばらしくいい。この絵本が本当に作者の創作であるなら伊岡瞬は立派な絵本作家だ。それもかなり高いところに聳える素晴らしい作家だ。
ミステリーとしてはちょっとこじつけのような気もしたが、それを十分上回る人間の書きぶりは僕の心に砂漠のオアシスのように沁み入った。秀作。
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