年末にかけて3本の映画を見る。まずカウリスマキ。僕の大好きな映画作家だ。映画作りをやめたと聞いていたから、また活動し始めたと聞いてとても喜ぶ。
「枯葉」 90点
フィンランドの市井の人々。蓄えがあるわけでもなく、仕事も最下層といえる重労働の毎日。それは男も女も分け隔てない。狭い小さな部屋でラジオを聴く女。いつも聞こえるのはウクライナへのロシア侵攻。チャンネルを変えると音楽が言語は不明だが、日本の懐かしい曲が流れる。貧乏だが、なけなしの金で友人と行くカラオケバー。そこで女は男と出会う。二人はただ見つめるだけ、、。二人の最初のデートはゾンビ映画。楽しんだ後、二人は次回の出会いを約束する。だが男はそのメモ書きをなくす、、。
もうなにも書く必要はない。カウリスマキの世界がそこにあふれている。レトロな音楽がずっと流れている。ささやかな出会いと二人で過ごす時間があれば人は生きていける。それだけで十分なのだ。ふと自分に戻る。汚辱にまみれた私でも、心を勇気を信じたい。
「ポトフ 美食家と料理人」 90点
カウリスマキと180度違う19世紀末のフランス貴族世界を背景にした食の世界。映画の大半が料理作りのシーンで圧巻。とにかくすごい。あれだけ手間を労力を駆使してできた豊穣のスープの味わい。
もはや芸術といってても過言ではない料理の達成感とその愛の喪失からユンはものすごい映画を作った。ユンの全編絵画のごとき流麗な映像と作品の持つチカラからは彼の「8・1/2」が見える。芸術を創造することの喜び、苦しみ、すなわちそれは人生である、と。
今、ユンは彼の作家人生で熟成期にあると考える。素晴らしい秀作。
「PERFECT DAYS」 90点
「東京画」以来のヴェンダースの東京再現だ。男の日常はワンパターン。粗末な住宅である。朝起きて小さな植木に水をあげ、そして車で都内各所を回りトイレを掃除する。終われば銭湯で体を洗い、そしてチューハイをすする。たまには古めいた小料理屋で酒をいただく。その繰り返しだ。
なんとこの映画では役所の声がほとんど聞かれない。特に前半はまったくだ。彼は心で、体でヒトを表現する。私たちもそのうち同化する。そのうち、ちらりと彼の素地も見えてくるしかけ。面白くなってくる。
姪が家出してくることから、彼の家が素封家だったとわかってくる。また、行きつけの小料理屋のおかみにわずかな恋愛感情を持っていることもわかってくる。
何が今の彼の生活を持続させているのか。
この世に生存するすべてのものと共存し、それに感謝する。木々、空、人々、100円文庫本、それらとかかわるこの人生。素晴らしきかな。
ヴェンダーズ、流れる音楽の最高でした。彼も極みに来ていますね。本当に日本、東京が好きなんだ。あののっぽの東京タワーが何度も映されていました。
カウリスマキが審査員賞、ユンが最優秀監督賞、ヴェンダースが最優秀男優賞(の作品)を取る。今年のカンヌ映画祭は昔の勢いに戻った気がします。
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