
力作である。登場人物も多い。なのに一人何役も掛け持ちもある。それだけボリューム感も豊富な、深く掘り下げられた一在日韓国人の人生が語られる。
日本に来るときは船に乗り、それこそ苦渋の難旅である。そしてたまたま住み着いたぼろ屋に前の住人の表札か掲げられている。それが太田という名であり、すなわちそれが彼らの日本名となる。そんなものか。僕はかなり驚くが、そういうことが淡々と語られる。
そして祖国では政治運動をしていたことがあり、2年間も日本の特高警察に見張られることとなる。しかし、主人公の男の子はその特高警察とも仲良くなってゆく、、。事業のパチンコ業に成功し、彼は祖国を思う心を美術品(壺 朝鮮語でハンアリ)に託すこととなる。
それがまあ、この演劇のあらすじであるが、見ていてとにかく映画のように面白い。骨太である。最後、対馬から祖国を見る人々の眼差し。感動篇である。
金哲義のほとばしるような尽きぬ思いを語った演劇だろうと思う。在日の心情、そして祖国感は我々日本人にはおそらく完全に理解できぬものであろう。頭で理解するものではないのだ。血の出るような思いを日常的に過ごした人間だけが語られる独白なのであろう。
素晴らしい劇であったが、しかしそういう理由からこの劇を自分のものにするには何か一本の線が目の前に存在し、それが妨げているような気もする。だって、僕には祖国という観念が皆無なのだ。
遠い異国に来て、倒れ果てた先人たちの思いを、つぶさに深く感じさせるスケールの大きい演劇であった。秀作である。
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