うーん、ほんと久しぶりの純文学読書。だいたい、ここ10年ほど、ミステリーかサイエンスものしか読んでなかった吾輩。ふとしたことから今話題のイシグロ文学に挑戦。
昔、アイボリー監督の映画作品は見ており、感銘したことは覚えている。またイギリスの名優アンソニー・ホプキンスとエマ・トンプソンの重圧な演技は覚えていた。
で、なかなか純文学から遠のいていた吾輩であったが、、、。
これが結構読みやすい。しかも深い。美しい。さりげなく、文明社会の批判もしている。執事という職業を人生の100%近くに崇め奉ったせいで、何かをなくしてしまった男の話である。
でも、われわれ一般の人間にも何故か伝わるものを持っている。それが文学なんだろうなあ。素晴らしい。
生真面目で、形にこだわって、自分自身を解放できない男である。そんな男を好きになり、けれど仕方なく男から去っていく女。
分かるなあ。
ラスト、女は告白する。「私は、夫を愛せるほどに成長した」と。
男は日の名残り、すなわち夕日を見ながら「ふりしぼろうにももう何も残っていない」自分に気づく。不覚にも涙する。
美しいシーンだ。センチではない。深いのだ。男が生まれて初めて自分を解放させた、その瞬間である。
根から生真面目な男なのである。以降彼は前向きに生きてゆこうとする。今度はジョークを勉強しようと真面目に思っている、、。
全体に美しい翻訳で、実に一行一行染みわたる文章だった。このすごい本を書いたイシグロはまだこのとき30代だという。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます