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日の名残り (ハヤカワ文庫)(2001/カズオ イシグロ) 90点

2017-11-27 20:18:05 | 読書遍歴

うーん、ほんと久しぶりの純文学読書。だいたい、ここ10年ほど、ミステリーかサイエンスものしか読んでなかった吾輩。ふとしたことから今話題のイシグロ文学に挑戦。

昔、アイボリー監督の映画作品は見ており、感銘したことは覚えている。またイギリスの名優アンソニー・ホプキンスとエマ・トンプソンの重圧な演技は覚えていた。

で、なかなか純文学から遠のいていた吾輩であったが、、、。

これが結構読みやすい。しかも深い。美しい。さりげなく、文明社会の批判もしている。執事という職業を人生の100%近くに崇め奉ったせいで、何かをなくしてしまった男の話である。

でも、われわれ一般の人間にも何故か伝わるものを持っている。それが文学なんだろうなあ。素晴らしい。

生真面目で、形にこだわって、自分自身を解放できない男である。そんな男を好きになり、けれど仕方なく男から去っていく女。

分かるなあ。

ラスト、女は告白する。「私は、夫を愛せるほどに成長した」と。

男は日の名残り、すなわち夕日を見ながら「ふりしぼろうにももう何も残っていない」自分に気づく。不覚にも涙する。

美しいシーンだ。センチではない。深いのだ。男が生まれて初めて自分を解放させた、その瞬間である。

根から生真面目な男なのである。以降彼は前向きに生きてゆこうとする。今度はジョークを勉強しようと真面目に思っている、、。

全体に美しい翻訳で、実に一行一行染みわたる文章だった。このすごい本を書いたイシグロはまだこのとき30代だという。


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