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天国はまだ遠く (2008/日)(長澤雅彦) 75点

2008-11-20 15:32:28 | 映画遍歴
導入部の、主人公が駅から降りてどこか遠くに行きたいというただちぎれる思いで、死に場所を探しタクシーに乗り付けるまでの息遣いは映像に込められており、さすが長澤雅彦、健在と、画面に見入りました。

女の子がよく空想するようなハナシなんですね。加藤ローサは人生に疲れ、愛にも自信をなくした女性の自殺未遂を従来の映画の役柄では納めなかった演技をしている。一日半眠り続けて腹が減ってパクつく食事シーンなど、とても明るく新鮮だ。現代女性のある意味軽いところも描き出している。

だいたい、自殺をするために侘びれた宿を探すなんて、宿屋側の自殺後の迷惑を考えたら出来るはずがない。でも、彼女はそれをお金で解消しようと思っている。いくらお金を積んでも、もう宿屋としてはやっていけないほどの事件であるはずなのに、彼女も現代っ子なのである。他人への迷惑なんか一切考えない現代女性なのである。

そんな、現代っ子女性をある意味引きこもりの青年は優しく見つめている。彼は両親の事故死、愛する人の自殺死を経験している。生の発端から見つめ直そうとし、農作を自営しながら民宿を営んでいる。町へは車で30分の距離だとは言え、現実から逃避している生活だ。そんな彼らはどう生き方について向き合えるか、、。

強引にストーリーを持っていかなかったのがこの映画のいいところだと思う。現代人の、しかも若い青年たちの癒しの物語なのである。現実を逃避してもいつかは(病気にならなければ)健康な若者たちは現実に戻っていくのである。

現実は実際見上げた空には星も瞬かないかもしれないが、心の夜空には燦燦と星が瞬いているのである。それは壊れたピアノが調律をしてまた蘇ったように、、。

何か、素晴らしい淡彩画のスケッチを垣間見たような気がします。色彩は薄くても、人生の淡さ、哀しさ、確かさ、荒さ、、生きていく力、そういうものをこの映画を見て得たように思います。

主演の加藤ローサ、素敵でした。彼女の心の移ろいは手に取るほどこちらに伝わりました。そして、徳井義実、何気ない柔らかい関西弁。彼もこの映画でこそ本領発揮というところでしょうか。強そうでいて、何か常に頑張っていそうな、その悲しみの本質をさりげない演技で演じ切り、秀逸でした。

この映画のエンドロール後の徳井義実の虚脱したような哀しみの演技は特筆ものです。でも、このシーンは本当にエンドロール後でいいのでしょうか、、。とても重要なシーンのように思えてしまいました。

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