セントの映画・小演劇 150本

観賞数 2024年 映画 92本、 演劇 70本

牡牛座 レーニンの肖像 (2001/露=日)(アレクサンドル・ソクーロフ) 85点

2008-05-22 16:45:27 | 映画遍歴
ソクーロフ歴史帝王シリーズ、本国レーニンの晩年の一日。相変わらず緩やかなカメラワーク。酔いそうなぐらいゆるりと左右に動く。「天皇」で見られた俯瞰的なカメラ位置ではなく、あくまで横からの普通の人を映した目線である。人間天皇、すなわち革命家レーニンの残酷なほどの人間描写である。

色は何かフィルターをかけたような牧歌的な色彩で、自然の営みが美しい。だが、美しすぎるほど透いていて、この世の景色では決してない。レーニンも50を多少超えたぐらいの年齢だが、70を十分越えているような死に行く老人の気配がする。

住まいは革命により資本階級を倒した労働者であるべきレーニンなのにまるで従来の皇帝のようなたたずまいであることの矛盾。世界史上でも珍しい理論革命家の最後は通常の老人と何ら変わらないすえた老醜さえ匂うのである。

たまに正気に戻るとあれほどブルジョアを嫌っていた調度類、食事に嫌悪を示すが、それも一時だけで認知症のただ眠い表情に戻ってしまう。革命家であれ、天皇であれ、一介の庶民であれ、死は確実に訪れる。スターリンによる幽閉のような環境下に置かれても、ただ死を待っている老人の日常はゆるい時間が過ぎ行くだけだ。

シンプルな映像なのである。ただ、死に行く老人の長い一日をゆるいカメラで撮影しているだけである。あまりにリアルである。映像が幻想的に美しいのも死を予兆しているように見える。人間レーニンの晩年の一日は我々の晩年の一日と全く同一なのである。うーん、衝撃的だ。あまりに生々しすぎますね。若い人たちには分かりづらいのかも知れない。ソクーロフ、珠玉の秀作。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« トゥヤーの結婚 (2006/中国)(... | トップ | 京都映画日記(5/19) »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

映画遍歴」カテゴリの最新記事