佐藤泰志原作ものとしては前2作に較べ多少明るい。函館の空気は依然どんよりしているが、それでも前向きの希望はかすかに見える。生きているということ、生きるということ、人と関わり合うということ、そのようなことを否が応にも考えてしまう作品だ。
男は普通の生活をしていたと思っていた。普通の人間だと思っていた。子供も生まれ、そんな人生がこの先ずっと続くのだと思っていた。けれど自分の存在が女を徐々に滅入らせていることは分からなかった。離婚後、仕事もやめ、郷里函館に帰って何気なく職業訓練所に通う無気力の毎日、、。
しかしそこも人生の縮図であった。いじめもあり、各人の様々な個性の葛藤もある。それでも同じく出会いを共有する者たちとの交流がそこにはある。しかし彼らにもそのうち別れが来る。
男はふとしたことからすぐ切れる女と恋をする。鳥が好きな女である。恐らくあの鉛色の空を飛びたいのだろう。でもかなわない、、。時々挿入されるモノクロの、空をバックにした飛ぶ鳥の映像がとても美しい。この映像こそ佐藤泰志の世界だと思う。時間が止まる。
オーバーフェンス。確かにソフトボールの球はファンスを超えて空に溶ける。そしてその先にはまたいつもの日常が待っているのだろう。自分を最低な人間だと思うこの男にもかすかな希望が見えてきた。それぐらいの、ほのかな道しるべはこの男にだって許されるはず、、。
卑近で、まるでもう僕らの身の回りにある市井の人たちがそこにいるかのような自然体の映画でした。生きていることの本質を見せられたような気がします。秀作です。山下敦弘うまい。
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