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ぼくたちの家族 (2013/日)(石井裕也) 85点

2014-05-28 13:46:18 | 映画遍歴

冒頭は中流マダムのお菓子を召し上がるシーンから。ハワイの話なんかしてどこにでもいそうな女性たち。一人が家に戻る。そこは大層ゴージャスな一戸建て。何の悩みもない人物に見えるが、、。

2時間の映画なんだけど、普通の家庭劇なんだけど、どこにでもあるような身につまされる話なんだけど、とても短く感じ、全く持って退屈なシーンは皆無だった。この題材でラストまで一気というのはすごいことだと思う。観客を画面に集中させるその凝縮力・密度の高さに驚きを隠せないほどだ。

初めて診察を受けてあと一週間の命というくだりはちょっとどうかね、とも思ったがまあそういうこともあるのだろう。(僕の今までの長い経験では皆無だが)それからは家族の喧騒曲が始まる。

夫である長塚京三の、息子を頼る弱々しいところに少々びっくりもしたが、そういう人もいるのだろう。経営者でいて子供のような危うさを持つ微妙な役柄だが、長原はさすがうまく演じている。

原田美枝子も動的なエモーションの中心人物となりこの作品を牽引する。極めつけは二人の兄弟だろう。すべてのことに真剣な兄。くだけた弟。その彼らが家族を想う時、尋常ではない力を発揮する。相変わらず妻夫木聡池松壮亮の達者な演技。見応えがある。

ゴージャスな一戸建てなんだが、家はローンで買ったもの。まだ1200万円も借財がある。父親の会社は赤字続きで破産手続きをした方がまし。当然生活費には回らず何と母親はサラ金で生活を支えている始末。母親の入院費も息子に無理を言う父親。

しかしここでタガが締まり、とにかく母親を助けようと家族が一丸となってその日から駆けずり回る。

ちょっとしたことが、まさに自分だったらどうしようとか、親近感があり気になりだし、他人事ではなくなるんだよね。たいしたことではないのにどんどん自分の胸が重くなって行くその過程はやはりこの映画の持つ強さでもある。しっかりとした演出力、演技力は観客の気持ちを画面の向こうにぐんぐん連れて行く。

だけど、病気のことを考えるに、悪性リンパ腫であったなら本当の病気との闘い・家族の格闘はこれからなんだよね。それはすっぽり抜けているけど、この映画、後半になってからいつどこで終わってもいい感じで描いている。家族の歩む道にはエンドはないんだよね。素晴らしい映画だなあと思う。

石井裕也は「川の底からこんにちは」で映画の突き上げるエネルギーを、「舟を編む」で映画の定石をじっくり描き込んだ。この作品はその2作の昇華作品と言えるのではないだろうか。2時間まさに観客を釘付けにするこの作品はまさにこれぞ映画である。映画の粋である。本年度屈指の作品である。


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2 コメント

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若いのに・・・ (フィルムセンター館長)
2014-05-29 09:02:06
この映画、良かったですね。
僕が感心するのは、石井裕也と監督は若いのに若さからくる力みを全く見せないことです。
年齢に似合わないこの落ち着きに感心してしまいます。

なにかのついでに映画を見ることになってしまっている昨今ですが、色んな事が前後したので6月は自由がききそうです。
作品を狙い打ちで見に行けそうですので、ぜひ面白い映画を紹介してください。楽しみにしています。
食事でもご一緒しましょうか…。
返信する
お近いうちに (フィルムセンター館長)
2014-05-30 10:06:51
ご連絡有難うございました。
今朝がた原因不明の腹痛に襲われました。
それが落ち着きましたらご連絡差し上げます。
私の都合でスミマセン。
お近いうちにご一緒しましょう。
楽しみです。
返信する

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