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休暇 (2007/日)(門井肇) 85点

2008-06-12 13:58:45 | 映画遍歴
最近流行っているかのようなまたまた死刑囚を題材にした人間ドラマだが、あまりに描写が素晴らしくいい映画にだけ感じる心にしみわたる感覚をひたひたと感じる。

明日のない死刑囚も、日常をただ怠惰に生きて来た刑務官も、残されている時間の多い少ないは別にしてその日を生き続けている。我々も切ない日常を生き、たまには映画館で人の違う人生を見ている。かといって、日常の空間が急に変化することもなく、ただ時間を積み重ねている、かのようである。

人の営みとは何なんだろう。人との出会いは何なんだろう。生きて人は死んでゆく。死に行くとは一体全体何なんだろう。そういうどうしようもない思いがこの映画を見終わった後沸々と出現する。

新しい人生を歩むために初めて努力をしようと決意した男は、死刑執行時、嫌がる役目を務めることで休暇を取得し、人とのつながりを確かめるために新しい家族と共に旅に出る。旅先でも、やはり執行に立ち会った記憶が重くのしかかる。死刑囚とは言えど、日常を一緒に生きていくと情が沸いてくる。生きている人間同士の想いも静かではあるが確かなものになってくる。その人間を一人亡くしたのだ。否、死刑を国家の命令とはいえ執行したのだ。集団の役回りで人間を殺めたのだ。

男は殺めた死刑囚の足のもつれた感覚を覚えている。常に頭に思い浮かべる。だがふと気づくと新しい家族の顔がすぐ目の前にもある。この貴重な時間のために執行したのだ。死んでいった男のためにもこの時間は無駄には出来ない。家族となる息子が描く絵はだんだんと暖かい絵になっていく。そういえば、死んでいった男は独房で津も絵をかいていたけれど、色はなかった。だが最後に新しい家族の絵を書いてプレゼントしてくれたっけ。男は死んでいった男に感謝をする、、。

再生がこの映画のテーマなのであろう。死刑囚も短時間ではあるが、安らかな日々をこの拘置所で送ったのである。刑務官も、その同僚も、死が常に傍にある環境から我々からは考えられない人間の本源的なものを感じ取っているのかもしれない。

生と死は一体のものであろう。生があるから死があり、死があって新しい生もあるのである。生き物って、その一瞬にこの世に出現してきたものであります。僕は今、この世に生きているということを大事にしたいなあと思っています。本当に、自然発露的にしみじみと自分の人生を考えてみる機会を与えてくれた映画です。

それにしても西島秀俊の静かで動的な演技はものすごい。今までの最高作ではないか。受け役の小林薫も複雑な心根を秀逸に演じうなりました。二人の演技は壮観です。今年のベストテン級の秀作になろう。

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