孤高のピアニストの光と影。私たちはCDを通して彼の芸術を理解しようとしているが、この映画は彼の私生活から彼の芸術を探ろうとする映画である。
本当のグールドファンには彼の私生活なんか意味ないのであるが、この映画はぐいぐい彼の孤独を音楽より私生活、すなわちエピソードから掘り起こす。それは3人の女性遍歴である。特に2番目の女性は子供が二人いる女性であり、夫から逃れて子連れでグールドの元に来るのである。
これは世にいう不倫という種類のものであろう。しかも、離婚に至らずこの女性は愛の終わりと共に再び夫の元に帰ってゆくのである。
神経質なグールドは病原菌が介在する病院に死期近い母親の見舞いにも行かず母親の死去後それをとても悔やむことになる。そんな幼稚的な部分もある。
音楽的には天才肌の芸術家でもひとたび浮世のこととなれば並みの男なのである。僕にはそれがおかしいし、ほほえましく、可愛くもある。かと言って彼の芸術性の評価が変わることはない。あくまで彼は孤高のピアニストであり、今でも孤独の人の心を癒してくれる希有なピアニストなのである。
この映画を見た後、久しぶりに彼の「ゴールドベルク変奏曲」を聞く。昔感動した音はそのままクリアに僕の胸に響いている。やはりグールドは人並み外れた素晴らしい芸術家である。
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