「男性=強者、女性=弱者」という暗黙の前提で男女同権の主張が行われることの弊害

2024-09-09 11:53:38 | 生活
今井むつみの著書を元にスキーマの話をし、御田寺が述べたように牛角のセール批判への反論が、実際には女性差別の時にしばしば使われてきた論法そのままである(そのことに気付いているならそんな間の抜けた反論はしないはず)ということを述べた。
 
 
これらを踏まえて、今現在見られるスキーマを考えてみるに、次のようになるだろう。すなわち、「男性は強者で女性は弱者。だから強者たる男性は、弱者たる女性に権利を与えよ。しかし逆のベクトルでの主張は、女々しいのでやるな」と。男女平等という旗印の元に女性権利を主張しながら(その異議申し立て自体は正しいことも少なくない)、一方でそういう権利を当然男性も持っているし、あるいはそれが無いと男性が主張するのも当然だ、という普遍主義的な見方をしない・できていない人間が結構な数いそうだ、ということである(牛角の件はそれを露呈させた、と言っていい)。
 
 
女性の権利向上が進み、男女平等という発想がより当然のものとされるにつれ、先に述べたスキーマの欺瞞性は今後しばしば問題視されるようになるだろう。「女尊男卑」といった物言いは、現在だとミソジニーによる女性否定であったり、「弱者男性」によるルサンチマンの産物という要素が強いように思われる。しかし、価値観の多様化・複雑化の中、経済が衰退して余裕を失い、さらに単身世帯が増えて異性とのすり合わせの必要性も減っている状況を見ると、もう10年後には、潮目が変わってる可能性が非常に高いのではないか(一応言っていくと、こういう傾向が過剰に進んだ先にはミソジニーやミサンドリーはもちろん、インセルのごとく極めて独善的・暴力的な発想の人間が少なからず出てくる恐れがあり、それをどう防遏するかは社会的な課題となるだろう)。
 
 
そうなってくると、御田寺の記事に載っているような、アメリカの企業の対応が一般化していくのが高いのではないか。これは「アメリカ様がこうおっしゃっているぞ」などという「出羽守」的な話ではない。要するに、「余計な批判を受けたくないなら、性別で分けるような施策はやらない方が懸命な社会が到来する可能性が高いんじゃない?」と言っているのである(セールを行う話題性やベネフィットと、批判に対応するコストが見合わなくなる、という話)。
 
 
何を大げさなことを・・・と思う読者は、「男性の体臭」に関する発言が炎上し、契約解除にまで到った最近の事件、あるいは自民党総裁選に関する「おじさんの詰め合わせ」発言が炎上した件を想起すればよい。単発的な現象と呼ぶには、あまりにも類似の出来事が連続していることに気付かされるはずだ。
 
 
こういった現象の中で、ジャニーズ問題が大々的に報道されたことで同性間の性被害が大きくクローズアップされ意識の変化に繫がっているように(ただし法的な変化という意味ではまだ道半ばだが)、また「デートで男性は女性に奢るべき」という話は何度か議論になっているが、これまた先に述べた男性>女性という暗黙の了解のもとにしか成立しないスキーマであり、ゆえに社会が変化していけば、それを当然のように要求するのは「たかり」行為として脅迫罪となり、かつそれを肯定するような言説は犯罪教唆とする認識が広がっていく可能性は十分ある(あくまでその場での関係性や状況に基づいたやり取りの範囲で例えば「前回は奢ってもらったから、今回は自分が奢る」といったことはあり得るが、それを一般的規範として他者に要求することはできなくなる、という話だ)。
 
 
ちなみに私はこういった暗黙知と実態社会のズレ、及びそれに基づく対立は、今後深まることはあっても解消はしないと考えている。正確に言うと、コミュニケーションの難易度が飛躍的に上昇し続ける中で、他者と上手く折り合いをつけながら共生できる人間の割合はどんどん減っていき、その間隙を埋めるのがおそらくAIではないか、ということである(AIの「進化」と人間の「劣化」)。
 
 
日本に関して言うなら、前近代(プレモダン)の要素が大いに残存したまま近代を過ごした結果、後期近代(ポストモダン)と言われた頃には、むしろ日本は後期近代の要素を持つ「新しい」社会だと言われるようにもなった(まあそれはただの幻想なのだが)。今後に関しても、課題先進国としてAIに頼らざるをえなくなった結果、「新しい」社会がいち早く現出するのかもしれない、と述べつつこの稿を終えたい(と書いてみたが、今の出生率や男女対立の様相的に、韓国の方が先かもね)。

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