北朝鮮の動静が毎日ニュースに取り上げられているが、ここでも言われているように、「単なる強硬策や融和政策は意味がない」。「対話を重視する」というのはいかにもハト派的対応としてわかりやすいが、そもそも北朝鮮の軍事力開発がここまできてしまった要因の一つはいわゆる「太陽政策」であるし、また歴史的に見ても、ナチス・ドイツの領土拡大を許してしまった要因の一つは英仏の融和政策だった(もちろん、ヴェルサイユ条約の天文学的賠償金や、苦境のドイツに仏・白がルール占領で追い打ちをかけたという背景を念頭に置く必要があるが)。 端的に言えば、ハト派的対応は有効であることもあれば逆効果であることもあり、外交という戦略的思考が必要な場において真理を定めがたいのである(このような絶対的安全策などない、という例はいくらでもあるが、たとえば中国の王位継承や権力配分で言えば次のようなものがある。魏では曹丕と曹植の王位継承争いが起こった結果、皇帝に権力を集中させる仕組みが採用されたが、それを逆手に取られて司馬氏に滅ぼされた。司馬氏が建てた晋は魏の反省で王族たちに強い権威を持たせ周と同じ封建制を採用したが、その結果後継者争いの八王の乱が起き、王族たちが戦争を有利に運ぶために北方民族を呼び寄せたはいいがそこから永嘉の乱が起き、南北朝時代の到来となった。それら歴史的事実を知る唐の李淵は、息子たちに「仲良くしろ」と言うしかなかったという。しかし、それでも結局は後継者争いの中で李世民の玄武門の変が起こってしまったわけだが)。
以前は、北朝鮮は同じ共産主義国の中国の子飼いで、かつての「援蒋ルート」のごとく中国の支援によって成り立っているようなイメージも持たれていたが、中国がもはや北朝鮮をコントロールしきれなくなっており(BRICs会議中のミサイル発射などが典型)、ロシアが影響力を強めていることからますます情勢は見極め難くなっている(同様な視点で、アメリカは日本の保護者ではないので、ICBMの開発・使用にさえ歯止めがかけられれば、勝手に二国間協定を結んで核開発を容認することはもちろんありえる)。端的に言えば、ある国が後退すればある国が進出し、防波堤にしたり交渉のカードにしたりとそれぞれの思惑をもって動いているのであり、その背景を見極めることなしに表面的な行動や言辞だけ取り上げて右往左往しても意味はないし、ましてやハト派・タカ派といった姿勢・価値観で硬直的に外交を進めても状態を悪くするだけである。ちなみに、ここでヨーロッパの危機意識の低さにいら立つ向きもあるかもしれないが、ウクライナ問題が生じた時、一体どれだけの日本人がその問題を真剣に考えただろうか?また安倍首相がそれを容認する発言をしていたことを覚えているだろうか?80年前にソ連の侵攻を被り、30年前までバルト三国などが支配下にあったヨーロッパにおいて、陸続きのロシアの脅威というものはリアルなのである。それを日本人が共有できないこと自体は不思議だと思わないが(まあ北方領土問題とかを考えるとずいぶん牧歌的だとは思うけれども)、同じような認識のギャップが北朝鮮問題について生じることは想定・理解すべきだし、その上でいかにそれらの国を味方につけていくのかを考えていく必要があるだろう(ICBM開発を逆手に取り危機意識を煽る、東アジア情勢が緊迫することによる経済的影響の訴えetc...)。
私は前に「ABCDがE」つまりは石油輸出禁止に関して触れたわけだが、まさに今国連安保理で天然ガスの輸出禁止、北朝鮮からの輸入制限などが採択された。とはいえ原案にあった原油の輸出禁止などは除外されたわけで、相当手ぬるいものになったと言わざるをえないが、中国・ロシアが賛成するようハードルを下げて具体的な一手を打ったということだろう(実効性より象徴的な意味)。このように外交の道は曲がりくねっていて一筋縄ではいかず、緊張感や苛立ちの中でアメリカ軍の直接的軍事行動や、北朝鮮の国際的包囲網が速やかにできることを過度に期待したり、そのような言辞を垂れ流すのは誤りである(そこまでわかった上で、あえて情理に訴えた「べき」論を展開していくことは必要だが)。
ちなみに中国やロシアについては以下のような動画も参考になる。北朝鮮と関係の深い中国東北部が江沢民派の強い地域であるとか、中国側の軍事的発言はまさにチキンホークのそれで現場の上級将校の考えはそんな単純なものではないとか(端的に言えば、中国は一枚岩ではない)、色々考える材料になるだろう。
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