前回の「灰羽連盟のキャラ造詣」において、次のように述べた。クラモリの行動は抽象化すれば超越的・高遠なものに見えるが、
(1)冒頭から描かれるオールドホームの灰羽たちがそもそも「敬虔」という言葉からほど遠く、そのイメージが強い
(2)灰羽同士のやり取りに敬語や「さん」付けが基本的に使われない
(3)クラモリたちのやり取りも(2)を踏襲しており、また会話シーンにおいて、クラモリがレキに決定権を委ねるような言い方をしている
といった理由から、その振舞いがあくまで親密さゆえの献身・愛情として視聴者に受け取られたのではないか、と。
ところで、作者の意図を無視して抽象論だけこねくり回すと、以下のような読み方も可能である。おそらくそれらを読むと、灰羽連盟に対してあなたが感じたかもしれない「なんとなくいい話」というイメージがむしろよりいっそう茫洋としたものにしかならないこと請け合い(笑)であるが、逆に言うと私がどういう視点を回避しようとしているのかを理解してもらう上では参考になると思うので、 一応掲載しておこうと思う。
クラモリの振舞は確かに超越的・高遠なものに見えるが、それはレキの視点を通したものにすぎない。このことは、彼女の立ち居振る舞いがあくまでレキの回想の中でしか出てこないだけでなく、クラモリを始めてレキが目にしたシーンがインプリンティングを思わせる描き方をされていることからも明らかである(まあ脚本集を見ると、作者はインプリンティング的であることさえ意識していなかったようだが、それは無視するw)。つまり、あえて言うなら、クラモリの超越的にも見える分け隔てのない愛情や自己犠牲の精神は、あくまで彼女をそのようにして見るレキの評価を反映しただけのものにすぎない。
では、それが一体何だと言うのか?ここで少し視点を変えてみよう。少なくとも本編に登場する灰羽を見る限り、灰羽がハイティーンや成人として生まれてくることはないようだ。例えば灰羽歴9年目で最年長のネムはラッカ転生の時点で21歳だが、レキが生まれた時点で14歳という設定からすると彼女が生まれたのは12歳で、レキやヒョウコ、ミドリたちも似たような状況であると考えられる(成人たちはグリの街の外に転生するのか?といったことは不明)。とすれば、クラモリはそのビジュアルから少なくとも4~5年は灰羽として過ごしたと推測されるが、そこからレキやネムと同様に葛藤や何がしかの心残りがあったと思われる。そのような前提に加え、彼女が罪憑きのレキを救う中で「巣立ち」を迎えたことを考えると、クラモリはむしろレキを救うという行為によって自身もまた救われたのではないだろうか。少し想像をたくましくするとこういう具合だ。西欧貴族の娘たちが自らの幸せな境遇の無根拠さをむしろ悩んでキリストの道を歩んでいったのにも似て、なすべき何かを知らぬクラモリはまるで暗い森の中にいるがごとく迷っていた。しかしその果てにスティグマもて生まれたる子を救い、そして(ネムのような)彼女を恐れる者たちを彼女と結びつけ灰羽の共同体を安んずるという「蔵守」としての使命を見つけ、果たし、「巣立」っていったのではないか、と。
要は、レキが見たのはすでに生きる意味を見出したクラモリであって、己が使命を知らず、無為な生に煩悶する彼女ではないのだ。ゆえに、本編に表れたクラモリの姿をもって彼女を「敬虔」とみなすのは、レキの視点に引きずられ、その葛藤の軌跡を度外視した評価であると言える。
とまあそんな具合。その具体性・親近感ゆえに実存の揺らぎが視聴者へ届く作品なのに、こんな抽象的かつ宗教的な論をこねくり回しちゃ内容云々以前にパフォーマティブ、あるいは戦略的なレベルでアウトオブクエッション。まあ勝手にオナってろって感じですなwちなみに、クラモリと「敬虔」の問題についてはその「巣立ち」の位置付けについても書くべきことがあるので、次回はそれを扱う予定。
つい貴方のこの考察を見て唸ってしまいました!
初対面で何ですが自分もクラモリについて少し
確か灰羽連盟と似た世界観のアニメ"angel beats "というアニメ(見たことありますか?)のゆりという女の子はsssというグループのリーダーを勤め、皆を引っ張っていく…
その根底には生前強盗から妹弟を守れなかった自責の念からであり最終的にはメンバー達を守り抜き過去の呪縛から解放されていく…
正にクラモリと同様の人生(死んでるからこの言い方も微妙だが)と本質的にはほぼ同じ…
もしかしたらクラモリは灰羽の世界に来たゆりかも知れませんね…
さて、ご指摘いただいた“angel beats”という作品は未見ですが、そのアナロジーは興味深いですね。というのも、「メシアコンプレックス」と呼ばれるある種の強迫観念にも近い心の動きがあって、それが共通して見られるからです。この観念は一歩間違うと人を救うと言いながら自分が救われたいだけの迷惑な人間を生産することになりますが(そのもっとも極端な例が「自慰識過剰なる世界」で書いた例ですが、カウンセラーを目指したがる手合いの一部にもこういう存在が見受けられます)。
メシアコンプレックスに限らず、「灰羽連盟」は示唆に富んだ作品ですよね。原罪や相互扶助はもちろんこと、宗教が(性愛と並んで)包括的承認を与えてくれるものであるetcetc...コメントをいただいたことをきっかけに、今の自分が灰羽連盟を見たらどのような印象を受けるのか、改めて検証してみたいと思うことができました。ありがとうございます。
他の記事も見たんですがN作さんって灰羽連盟の楽しみ方と考察の仕方が御上手ですね!!
(以下長文になりますすみません 後をangel beat を見たかったらネタバレ注意)
同じくangel beatsの登場人物に音無結弦(主人公)ていう子がおるんですが実はよく考えると彼の方がN作さんの推測したクラモリの生きた軌跡に非常に近いんです!
彼は生前生きている意味がわからず無気力な人生を送っていてろくに学校にもいっておらず 最低限生きるためのお金を稼ぐだけの生活を送っていました。しかしそんな彼も病気で入院している妹の世話を毎日忘れずにしていました。
その妹が死んでしまい彼はその時に始めて自分にとも生き意味があったことに気づき妹のような人を助けたいと医者を志すことになったんです。
彼女の名前の暗森は生きている意味がわからなかったことの暗示かもしれませんね…
ちなみに自分が何故このangel beat と灰羽連盟が世界観が似ていると思ったのかというと灰羽連盟を死後の世界だと考えているからです
N作さんは灰羽連盟の世界をやはり死後の世界だって思っとります?後罪憑きは自殺者だと思います?
>同じくangel beatsの登場人物に音無結弦(主人公)ていう子がおるんですが実はよく考えると彼の方がN作さんの推測したクラモリの生きた軌跡に非常に近いんです!(中略)ちなみに自分が何故このangel beat と灰羽連盟が世界観が似ていると思ったのかというと灰羽連盟を死後の世界だと考えているからです
N作さんは灰羽連盟の世界をやはり死後の世界だって思っとります?後罪憑きは自殺者だと思います?
なるほど興味深いアナロジーですね。結論から言うと、灰羽連盟の世界が死後の世界であることは間違いありません。というのも、散文的な返答で恐縮ですが、セル用のDVDに付属しているグッズ(「灰羽手帳」という名称だったと記憶していますが)に明確に書かれているからです。
一方で、罪憑き=自殺者かどうかは少し解釈の難しいところですね。参照できる例が二つ(レキとラッカ)しかないこともそうですが、何より前者が先天的な罪憑きであるのに対し、後者は後天的であるという相矛盾する特徴を備えているからです。よって、すでに決定した死因(=自殺)をもって罪憑きとなるのか判断するのは難しい。
ただ、ここで想像をたくましくすれば、レキとラッカの夢の違いにヒントがあるかもしれません。すなわち、前者は落下(=投身自殺?)を止めようとしたカラスがおり、夢の内容を覚えている。一方で後者はそのように他者が関わった形跡がなく、しかも夢の内容(飛び込みによる轢死)をよく覚えていません。ということは、前者は他者の媒介によって自分に対する絶望と自殺のあり方が「不完全」であるのに対し、後者は他者が媒介しなかったがゆえに自分に対する絶望も自殺のあり方も徹底したものとなった。結果として、前者は後天的な(あるいはそうなりやすい体質[?]をもった)罪憑きとなり、後者は先天的な罪憑きとなったのではないか。このように考えることはできます。
率直に申し上げれば、作者によってものされた『灰羽連盟読本』を見る限り製作段階でこのような区分けが厳密にされていたとは考えにくいのですが、ともあれそのような推論をしておくのが今のところ最も矛盾が少ないのではないかと思います。
話は変わりますが、私がangel beatsという作品の概要を見て感じたのは、むしろCROSS†CHANNELの影響です。angel beatsという作品がお好きならこの作品も気に入ると思いますので(ネタバレ回避のため)詳述は差し控えますが、FaitalityがFaitalityたりえないこと、ギャグタッチとシリアスなトラウマなどが共存していること、そして各キャラの救われ方など極めて強い連関性を思わせます。angel beatsがkeyの麻枝唯によるものであることからしてもその可能性は極めて高いでしょう。
その他様々気になる部分もありますが、すでにかなり長文になっておりますのでここまでとさせていただきます。では。